ともこ

護られなかった者たちへのともこのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
4.5
試写会でひと足先に鑑賞。


震災の日は私は卒業間近の東京の高校生だった。
とんでもなく大変な事が起こったと言う認識は当時もあったけど、そこに生きる人たちの気持ちまで推し量る事は出来なくて、なんとなく東京の人間が口にしちゃいけない気もしていた。

生活保護についても制度がある事を知っているだけだ。
実態を考えようとした事もなかった。

今回の映画を見て全てをわかった気になるつもりはないけれど、そこに確かに傷ついた人間がいて、護ろうとした人間がいて、護られなかった人間がいる事を痛感させられた。
そして、それでも一生懸命生きようとしてる事も。
瞳に宿した感情を考えれば考えるほど、どうしようもなく遣る瀬無い気持ちにもなる。
台詞一つ一つにも強い感情を感じられた。

「死んだら終わりなんて事は絶対ない」に、あぁそうだったと、個人的に思う事もあるし、

「死んだら終わりじゃないか」と涙しながらこぼす感情も痛いほどわかる。

最後に笘篠が利根に言う
「護ろうとしてくれてありがとう」は“護りたかった人”全員が“護ろうとした人”だったんだと思えた。

この作品には誰も“護ろうとしなかった人”は存在しないのかもしれない。

たくさんの正義の形があって、たくさんの正義の見方がある。

それを私たちはどうしたって忘れがちで、手を伸ばして護ろうとするのには勇気が必要で簡単な事ではないけれど、素知らぬ振りで傍観する人間にもなりたくない。
必死に声を上げてくれる人の声を無駄にさせたくない。

震災や生活困窮者だけの話ではなく、もっと身近に、いま生きてる人間全員に対して問いかけている。

そしてどんな答えであっても、考える事から始まるのだと、主題歌の「月光の聖者達」が優しく包んでくれるような不思議な感覚になった。

震えた魂が嘘にならない様に、私たちは生きて生活を営む事についてもっと知るべきだ。


あと、
利根を演じた佐藤健の演技が凄まじかった。
時代や対人によって瞳の演技がまったく違う。
あまり多くは語らない役だったけど、瞳や声色や姿勢が全てを語っていた。

理不尽な物事に声を荒らげる利根とカンちゃんに対して優しく諭す利根、照れくさそうにしながらも擬似家族のようになった温かい日々を過ごす利根、どれもこれもまったく違う説得力があった。

もちろん、佐藤健以外の演者も凄まじいパワーがある人ばかりで、特に清原果耶の強い怒りを感じる瞳がすごくて鳥肌が立った。


社会派のヒューマンミステリーの中でも本当に丁寧に描かれた良作だと思う。

この映画を観てから原作は読もうと、まだ読まずに積んである本を開いて映画の余韻のままもう少し考えようとおもう。
ともこ

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