人種、同性愛、宗教、理性と感情、重たくしようと思えばいくらでも重たくできるテーマを扱っているが、苦悩しながらも前向きなエリー、ポール、アスターによってきちんと青春映画になっている。
ただしんどいはしんどい。
エリーは内向的で頭が良く同級生を少し見下しがちなので学校内で友達と呼べる友達がいない。そんな彼女に声をかけてきたのは、古い言い方をすれば学校のマドンナであるアスターに恋をするポール。同級生のレポート代筆業で小遣い稼ぎをしていたエリーに「ラブレターを書いて欲しい」と頼む。手紙のやり取りがなされるようになるのだが、3者の関係性が複雑になっていき…ー それが本作のストーリーだ。
その過程で「しんどい」のはエリー。
彼女は彼女は無宗教で「理性」を心のよりどころにしてきたわけだが、アスター、ポールとの関係性を通じて「理性」が全てではなく「感情」も重要だと悟る。いわばそれは彼女のそれまでの人生の基盤、心の拠り所が崩れることになるわけで非常にしんどい。
では彼女を何が支えるのか。
まず未来、アメリカの小さな町から出ることがなく出るつもりもなかったのだが、最後には大学進学のために旅立つ。未来への希望、それがエリーを前向きにする。
そして1番は、人とのつながり。アスター、ポールとエリーは色々あったし考えが違う部分もあるが、お互いを考え方を受け入れている。その「受け入れられている(have the inclusion each other)」ということが心の支えになる。
映画タイトルの『the half of it』
ここでの「it」は「愛」だろう。
冒頭にイラストでイラストで古代ギリシア人が考えた「愛」の説明がなされる。
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人間はもともと4つの手足と2つの頭を持っていて完璧な存在だった。神様がそれを恐れて、2つに割った。片割れを探して、元の一つに戻ることはこれ以上ない喜びである
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そしてプラトンの言葉も引用される。
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愛とは完全性に対する欲望と追求である 『饗宴』より
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ただこの「完全性」、受け取り方を間違えると危険な概念だ。
完全とは100%の一致であり、相反するアイデアが両立することはないと受け取ることができる。
それに対し、エリーは終盤こう叫ぶ。
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Love is messy and horrible and selfish …..and bold.
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『the half of it』、それは完全である必要はない。
相反する考え方があっても両立できる、そして相反する考え方を持っていたとしても、受け入れて、関係性そして愛は作れる。
映像表現としても優れているが(エリーの家の駅による暗喩など)、何よりもその文学性が非常に高い。
前作が15年前だというアリス・ウー監督。確かにそのぐらいの時間はかかるかもな、と思うぐらい作り込まれた作品だった。