あさひ

ジュ・テーム、ジュ・テームのあさひのレビュー・感想・評価

5.0
大傑作だと思う。
あの時こうしていれば、なんて言葉、この映画を見た後にはとてもじゃないけど言えない。

まず結果的にこの映画のオチとしての主人公の末路はあれしかないと思う。どれだけ過去を記憶の中で再定義しようとしても、それは、記憶の持ち主本人の視点によってしか成し得ないもので、結果的にその本人の気持ちが変わらなければ、どうにもならない。

ここまでの諦念感で、登場人物の過去や末路を描けるのは凄いと思う。所詮人の人生なんてそんなもの、というある種達観した感じすらある。そういう感覚がとても好きだった。

ストーリー運びもラディカルで、SF映画の新たな(古い映画だけど笑)プロトタイプだと思う。情報を小出しにすることで、サスペンスフルに仕上げているのも良い。
実験的な作風の中に、しっかり映画として楽しめる演出がちゃんと施されている。

また、主人公が海から上がってくる際の仕草が毎回違うのもいい。僅かな反復と差異から、記憶というものの不確かさ・曖昧さを強調させることに成功している。
また、この演出のおかげで、主人公が自殺に至るきっかけとなる記憶(恋人の死)だけは強固で変わる事のない確かなものとして主人公の中に残っていることも逆に強調される。
僅かな反復と差異によって、人間の記憶の不確かさと確かさの両方を表現するのは凄すぎる。

この前観た『二十四時間の情事』の時にも感じたが、この監督は“記憶”と“愛”を作家性としているのではないかと思う。また、その映画も本作に似た諦念感があったように思う。この監督の実験性、考え方が個人的にとても好きだ。
キャリアの後半あたりからはコメディを量産しているが、そちらも観てみたい。
あさひ

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