朝田

ザ・ファイブ・ブラッズの朝田のレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
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ハッキリ言ってブラックカルチャーの重要な人物であることは前提として、スパイク・リーは好きな監督ではない。彼はどうも「メッセージを伝えるために映画を撮っている」ように見えてしまう。「映画を撮りたくて映画を撮っている」ようには見えない。要するに映画というメディアをあまり信頼していないのではないかと作品を見る限り思ってしまう。特に最近のスパイクは「ブラッククランズマン」やら「オールドボーイ」やら「ジャンル映画のフリをしたゴリゴリの社会派映画」を近年やたらと撮っているが、娯楽としても社会派としても中途半端な出来に終わってしまっているし本当にノレなかった。この作品はそんな彼の作品が苦手な自分ですら納得せざるを得ないほどの密度と熱量に満ちている。それは、「ドゥザライトシング」の頃のように、何かの皮を被る事なくスパイク自身の怒りそのものを娯楽として仕上げているからこそ強度が生まれている。「地獄の黙示録」に対する「今も地獄は続いている」というスパイク・リーからの強烈なアンサー。画角サイズの変化やフィルムとデジタルの切り替えにまで拘った語り口の拘り。本編の映像と共に写真や実際の動画などを織り混ぜていく事でフィクションと現実での出来事とがシームレスに繋がっていく十八番の編集が冴え渡っており完全に初期の頃のキレが戻っている。そしてスパイクは怒りが原動力な人なだけに最も巧く撮れるのはいつでも人がブチギレる瞬間だ。最も象徴的なのは鳥を売り付ける商人と黒人との喧嘩シーン。ただ人を喧嘩させるだけでここまでスリリングに画面を演出できるのは、やはりスパイクの才能であると改めて認識した。正直相変わらず苦手な部分は変わっていない。トリッキーな編集が施されていない、ただの会話シーンやら移動シーンやらとにかく何気ないシーンになると一気に緊張感が無くなっているなど。しかし、そうした好き嫌いを超越するエネルギーがこの作品にはある。154分という長尺も納得だ。見逃してはならない一作かと思われる。しかし、ここまでキャリアを重ねて未だ血の気が多い巨匠も中々珍しい。
朝田

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