おそろしくはやい手刀

ザ・ファイブ・ブラッズのおそろしくはやい手刀のレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
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再会した4人が軽口を叩きながら夜の街で楽しく過ごす様子が微笑ましい。その中の一人がトランプ支持でも、軽くいじって酒を飲んではしゃぐ。
登場人物の一人であるポールが被っている「Make America Great Again.」と書かれた赤い帽子は、トランプ支持者を示すアイテムだ。
それを被ってジャングルを進む。ベトナム戦争を共に戦った5人目の仲間の遺骨と、金塊を手に入れるために。
地面に埋まっている金塊と地雷を使った状況や、アサルトライフルで武装したベトナム人が金塊を狙って襲いに来たり、フランス人まで出てきてとにかく飽きさせない。

劇中「ランボー」について、あんなのは嘘っぱちだと批判する場面がある。
PTSDに苦しむスタローンが大暴れして、アメリカの田舎町でベトナムの戦場を再現する映画だが、戦争に行ったせいで人生が壊れてしまったと泣きじゃくる場面が個人的には気に入っている。最新作は見ていないが「最後の戦場」の後ろ姿が忘れられない。主人公のランボーが求めていたのは、安心して暮らせる故郷へ帰る事だった。
この姿がPTSDで過去にとらわれ続けるポールにダブる。

キング牧師の演説でヒューズという詩人が書いた詩の一節が引用される。
「アメリカは私にとってアメリカではなかった そして宣言する アメリカはいずれ変わると」
戦争から帰ってくると虐殺者と罵られ、ロクな仕事にも就けず、自由を謳う国の片隅で割りを食い続けたポールにとって、アメリカはアメリカではなかったのだ。
「Let America be America again.アメリカをもう一度アメリカに」とはラングストン・ヒューズの詩だが、これは「かつての夢を取り戻すように」と続く。
圧政も暴君も無く、自由と民主主義を標榜し、息をするのと同じように平等を享受できる、安心して暮らせる故郷を希求する、建国時の「夢」を取り戻す事を願う詩だ。

登場人物の一人であるポールが被っている「Make America Great Again.」と書かれた赤い帽子は、トランプ支持者を示すアイテムだ。
しかし、そこにポールが見ていた希望はより切実な物かもしれない。