ろーしゃーく

哀愁しんでれらのろーしゃーくのレビュー・感想・評価

哀愁しんでれら(2021年製作の映画)
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全編を通してブラックなユーモアに思わず笑わされる、めちゃめちゃ楽しい作品でした。渡部亮平監督、鬼才!

特に一番笑ったシーンは、癇癪を起こしたヒカリちゃんを「学校は行った方が良いんじゃないかな!」と宥めようとする小春&大悟。そんな説得あるかよ!とめちゃめちゃに笑かされました、最高。
そしてそんな爆笑シーンの直後に"自分が過去母にされた行為を娘にしてしまいそうになるが、小春の声で我に帰る大悟"という、ストレートにグッとくる場面が続くという絶妙さ。こういった間とかテンポとかバランス感覚についても恐ろしい手腕だなと。婚姻届の直前のシーンで、大悟の「ヒカリ!」にビクッとしてるヒカリちゃんを映してる細やかさ等も含めて。

バランスという点で言うと、実は全体を通して登場人物の誰にも肩入れしていないんですよね。誰が本当の事を言っていて誰が嘘をついてるか基本的にハッキリしないという。それでいて誰にでも感情移入出来るようにもなっていて、これを成立させてるのってめちゃめちゃヤバいと思うんですよね。本当に怖くなってくるぐらいの腕前。

基本的には一貫して笑いながら楽しく観たんですが、テーマとしては正義とか理想とかいった"正しさ"に飲み込まれてしまう人の話でもあり、各々の"正しさ"を真に共有する事の不可能性でもあり、という真面目で重たい話でもあるという。どんだけ凄ぇんだホント。
とりあえずハンバーガー食ってる義母にすら「もっと健康的な食事が…」とかうるせぇ事言ってる小春のせいで、勝手に野菜生活中の身でありながら帰途ハンバーガー買って貪り食ってやろうかという気分にもなりました。…ってくらい"正しさ"の押し売りってのは嫌ぁね。

あと耳ギュー!とか髪の毛グィー!とかいうアレは認知的不協和を解消する為の行為だと解釈したんだけれど、であれば大なり小なり誰でもやっている事な訳で。その行為も行き過ぎると"青い目の絵"に象徴されるように、自分(達)だけに見える世界に閉じ籠る事になってしまいかねないという事で、気をつけなければなぁと思いました。何をかは知らんが。

結婚式のシーンは千鳥のノブさんじゃないけど「(ドレスが)赤じゃ!赤いんじゃ!それは何!?」と思って見ており、ただただ不吉な感じは受け取りました。

個人的に登場人物達の中でバイブス合いそうなのは「人生を楽にする裏技は理想を諦める事」ってな喫茶店やってる小春の友達と、「俺もお前のことよく知らん」という小春父。だけれど、この2人についても結局本当の所なんて分かりっこない訳でね…という無限後退。

主演の3人がとにかく素晴らしかったのは勿論の事、小春の妹 千夏を演じた山田杏奈さんの"子供と大人の間'みたいな絶妙さも素晴らしかったし、小春の友達が連れてる赤ちゃんがスーパー可愛かったのもナイスでした。
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