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いのちの停車場のEDDIEのレビュー・感想・評価

いのちの停車場(2021年製作の映画)
3.6
“いのち”を全うする。その儚さと行方。
行き場を失った医師が病院医療と在宅医療の違いに戸惑いながら、千差万別な患者と触れ合うことで自分なりの医療と向き合う。
短編集のようなぶつ切り感はあったが役者たちの演技が心を揺さぶる。撮影が良い。

自分の中であまり優先度の高くない作品でしたが、幸い観たい映画が集中してるわけでもなく、さらにイオンシネマのワンデーフリーパスポート初体験を機に鑑賞しました!
ただ思った以上に良かったですね。

私、仕事柄在宅医療をテーマにした書籍といくつか関わったことがあるので、まったくその手のテーマに触れたことない人よりは少しだけ詳しいつもりです(とはいえ制作ではなく営業として関わったというところ)。

在宅医療テーマ書籍で必ずというほど触れられているのが病院医療と在宅医療の違い。どんなに腕のいい医者でも在宅医療に携わった途端、病院医療とのあまりの違いに戸惑い、最悪のケースでは長続きせずに辞めてしまうといいます。
本作あっさりとではあるんですけど、そのあたりにも触れられていてわかりやすいなと感じました。
特に吉永小百合演じる主人公の白石咲和子は緊急医一筋の医師ということで、冒頭はかなりエグいぐらい緊急医療の厳しい現場を見せつけられます(血とかグロいの苦手な方は要注意です)。

一方で、とあるきっかけで在宅医療に挑戦することになるんですが、スピーディーな行動かつ医療行為の的確な判断が要される緊急医療と異なり、医師としての治療や診断はあまり重要視されておらずのほほんとした診療の連続に咲和子はかなり戸惑うんですね。
その後の描き方がすんなりと受け入れちゃう感じではあったんですけど、随所に挟まれる短編的エピソードが結構いいんですよね。

個人的には泉谷しげるのシーンが特に印象的でした。陰のMVPは泉谷しげるに差し上げたいところです。
背中だけで感情を揺さぶってくるんですよ。撮影の相馬大輔さん素晴らしい仕事をしました。

あとメインキャストでは松坂桃李ですよ。この人いつの間にこんなに安心感と信頼感を与えられる素晴らしい役者になったんだと。
冒頭のどうすれば良いかわからずに立ち尽くすシーンがあるんですけど、そこだけで「あ、この人安心して見てられる」と感じさせるんですよね。
全編にわたって素晴らしい表現で作品を牽引してくれました。

吉永小百合は演技の動きの方では素晴らしい一方で、なんだかセリフを読んでるみたいなのが気になりました。滑舌の問題なのかなぁ。
とはいえ松坂桃李や広瀬すず、西田敏行と演技派がめちゃくちゃいい演技で引っ張ってくれるんで、作品としてかなり上質に仕上がっています。

ただ吉永小百合と石田ゆり子の共演はとてもエモい。2人の共演シーンはすべてが尊いです。

安楽死というテーマにも切り込んでおり、本作を観て「さて、あなたはどう思う?」と問いかけられているようでした。
本作鑑賞をきっかけに色々と考えさせられます。

※2021年新作映画61本目
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