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ヤクザと家族 The FamilyのEDDIEのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.3
ヤクザの栄枯盛衰…義理と人情、綺麗事だけでは生きていけない現実の厳しさを3つの移り変わる時代と並走しながら真正面から描く。周りに与える影響が連鎖していく模様があまりにも切ない。家族とは…他人に対し人はあまりにも無責任だ。

1月いちばんの期待作を観てきました。
藤井道人監督は『新聞記者』以上に、『デイアンドナイト』や『青の帰り道』が好きで、今回は『新聞記者』同様に社会問題に追及しながらも、ヤクザという世界観の中での人間ドラマがどのように展開されるかを楽しみにしていました!

3つの時代を演じ切った主役ケン坊こと山本賢治役の綾野剛はさすがでしたね。
『日本で一番悪い奴ら』で見せた破天荒さを内包しながら、『天空の蜂』で見せた危なっかしさの両方を兼ね備えた魅力的なキャラクターでした。
柴咲博役の舘ひろしは良くも悪くもという感じでしたが、侠葉会の若頭・加藤(豊原功補)にタンカきるシーンはさすがスターの出せる威圧感でしたね。

冒頭に書いた栄枯盛衰。ヤクザが繁華街を牛耳っていた1990年代でしたが、無惨にも時の流れと共にその勢いが削がれていきます。
私もビジネスマンの端くれですが、やはり契約書には暴排条例というのがほぼ必ず盛り込まれており、ヤクザら反社会的勢力を締め出す社会的な動きの一つだと思います。

2019年の本編では、ヤクザが威圧するだけでは簡単にコトが動かない世の中になっていました。もちろん私たちの感覚でいえばヤクザを排除するのは当たり前だし、彼らがデカい顔して闊歩するのはいい迷惑なんです。普通に怖いですし。
このように映画で彼らのドラマを見せられると彼らにも生活があるし、意地もある、そんな中社会からの爪弾き者として生きづらい世の中というのは無情だな、と。

北村有起哉演じる柴咲組若頭の中村の存在も無視できません。きっと彼は不器用なんですよね。性格はど真面目だけど、一般社会には馴染まない。だからヤクザとして自らの心血を注いで組に貢献するわけですけど、その彼の努力や実績が認められての若頭という地位になったと思うんです。
組長の柴咲からの信頼もかなり厚かったはず。だから、彼がまた時代の流れに翻弄されて堕ちていくのを見るのはつらかったです。

そして、ほかのキャストで注目したいのは市原隼人と磯村勇斗です。
市原隼人演じる細野は山本と若い頃からつるんでいて、山本を兄貴と慕っていました。ヤクザになってからもずっと山本と一緒に行動を共にした腐れ縁だからこそ、彼自身も時代に翻弄されていく模様が見ていてキツいんですが、彼の陽と陰の演技の使い分けが絶妙。2人の関係を見てきたからこそ、2019年の展開は見応えがありました。ある意味、本作で一番重要な脇役だったんじゃないでしょうか。

磯村勇斗は近年注目している若手俳優の1人ですが、『今日から俺は‼︎』でオリジナルの狂犬・相良を見事仕上げていて原作ファンとしては歓喜したんですが、本作でも見事な表現で魅せてくれました。
彼が登場するのは物語のほぼ後半ですが、ヤクザのような反社が自由にできない象徴のようなキャラクターでした。“今どき”というと簡単ですが、そんな若者を演じながらも、決してヤクザには屈しない漢としての強さを表現していました。彼が今後主役として活躍する機会は必ずやってくると思うので、いちファンとなって見守っていきたいなと思います。

ほかにも尾野真千子や駿河太郎、岩松了などなど、特筆すべきキャラクターが多いのも本作の魅力。
人間臭い、時代遅れ、だけども熱い熱い彼らヤクザの生き様がある。
結末は人によって様々意見は割れると思いますが、若い頃に何も身寄りのなくなってしまった山本は最終的に“家族”のような大切な人たちに巡り会えて幸せだったんじゃないかな。

※2021年劇場鑑賞11本目
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