このレビューはネタバレを含みます
藤井道人の演出力がさらに際立つ作品。
綾野剛も刺々しい芝居からどんどん味のある渋い芝居になって幅の広さを感じた。
磯村勇斗と市原隼人もラストの表情が素晴らしくて、役者としての良さを実感できた。
1999年、2005年、2019年の3つの時代を同じ役者で描くって難しいだろうなと思ったけど、俳優陣の芝居が支えていたのはもちろん、画の質感の変化には唸ってしまった。入れ墨があっても銭湯に入れた時代は彩度の濃淡がしっかりついてて、ヤクザはスマホの契約すら難しい時代は濃淡が少しなくなって柔らかく見えた。(気のせいだったらすみません)
賢治と由香の海のシーン、そしてラストシーンの空を見て本当にグッときた。まだまだ太陽も見えない空、もう少しで太陽が大きく見えそうな空、そして最後にようやく見えた太陽。
愛する人と太陽の光を見ることなく、光が差し込むことのない暗闇へ沈んでいく展開は本当に見ているのもしんどい。でも賢治は負の連鎖をひとりですべて背負って、次の世代に自分が親父から受けた愛を繋いだことで賢治の人生に一筋の光を感じられた。
賢治はヤクザじゃなくてもよかったはず。ただ、愛した人たちがヤクザだったというだけ。
家族は血を繋いでくのではなく、自身が受けた愛とか心を繋いでいくことなんだと、この映画は訴えかけてくれていたと思う。
賢治自身の走馬灯であるこの作品は、感動した!とか、そんなこと言えるような眩しく美しいお話ではないけど心揺さぶられる傑作でした。
主題歌で泣いたのは初めての体験だった。映画に合ってるとかではなく「あーまさしくこの映画、賢治の想いだ」と主題歌に対して思えたのも初めて。映画に音楽が寄り添うってこういうことなんですね。
総合芸術として隅々まで表現してくれている作品でした。