えんどぅー

あのこは貴族のえんどぅーのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
5.0
「東京って棲み分けされてるんだよ。階層が違う人たちとは出逢わないようになってるの」
華子の友達が言ってたこのセリフはある意味正しいのかもしれないけど、神様の悪戯か何かで、その本来であれば出会うはずのない2人が出逢ったことによる化学反応というか、偶然がもたらす世界の広がりを華子と一緒に体験してるようで全く飽きずに観れました。

誰と出会うかによって簡単に人生って変わるし、その土壌である東京はカオスで不思議な街だなと思う。誰かの幻想によって形作られた東京という街に、みんな何かを期待せずにはいられない

上映前の挨拶で麦ちゃんが、この作品は解放を描いた物語だと思う、と話していました。観た後はほんとにその通りだなと感じる。生まれてから今日まで、たくさんの人の影響を受けて生きてきた。そうやって形作られた自分をみんな本来の姿だと信じて疑わないけれど、果たして本当にそうだろうか? と優しく問いを投げかけてくれるような、かつ人との出会いを大切にしたくなる作品でした。

華子はもう美紀と会うことはないかもしれない。何年も経って、顔も名前も思い出せなくなるかもしれない。
でも27歳のとき東京で、偶然出会った女性に忘れられない"何か"をもらったことはずっと心に刻まれると思う。

そんな、無数の出会いと別れを繰り返す中で、ほんの一瞬のすれ違いが起こす奇跡みたいな瞬間を切り取ってくれたことが嬉しい。
分断を煽ることも誰かを裁くこともせず、閉じられていた世界が静かに開いていく快感は、これまで味わったことのないもの。
柔らかくて凛とした華子のラストカットの微笑み。自分の足で物語を歩み始めた、ひとりの人間としての美しさが確かに表れていました。
2021年暫定ベスト
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