ゆず

本気のしるし 劇場版のゆずのレビュー・感想・評価

本気のしるし 劇場版(2020年製作の映画)
4.3
 me too運動を経て、なお男性優位の強い日本で、そこにフォーカスを当て、映像化するのは面白いのではないかと。
「女性が性的被害に遭うのは、女性側に非があるからだ」とする現実はに対して原作は、20年前に「NO」を突き付けていた。そこはきちんとすくい取らなくてはいけない。さらに今回は、今の時代に合わせて、浮世が主体性を獲得して自立していく過程を、原作以上に強調して描くようにした。「男性社会の中で女性がどう生きるか」については、自分が男性だからこそ、関心を持つ。
 自分の映画では、瞬間的に出てくる暴力性の表現として、“ビンタ”を多用している。
 男を破滅に導く女というのはあくまで男性目線での考え方で、男が女性に同じことをするとプレイボーイと呼ばれてどこかポジティブな雰囲気が漂う。原作はそうした男女間にある不条理や不平等を巧みに突いている。男をドキッとさせてみたり、守ってやろうと思わせたりする言動というのは、あくまで男性社会のなかで女性が生き抜くための術みたいなもの。それを身にまとってしまった、身にまとわざるをえなかったのが浮世というヒロイン。男性目線で構築されたヒロインが、本当にリアルな世界にいたら、どれほどアンバランスな存在であるか。
 BGMを使わずに辻が飼っているザリガニの入った水槽のエアーポンプ音やヘリコプターの音を印象的に用いた。辻の住居として撮影するつもりだった部屋の窓ガラス越しに、彼と職場の先輩女性を会話させるという演出プランを考えていたけど、そこで撮れなくなってしまった。新しく準備した部屋の窓はすりガラスだった。どうしても決めていた演出で撮りたくて、水槽越しだったらイケるんじゃないかって思いついた。モチーフめいたものではないけど、水にまつわるものが一個部屋にあるだけで映像的にすごく豊かになる。いつも自分が水辺を出すのは哲学的な意味があるというよりは、水がカメラにとって美味しい被写体だから。
 
富岡多恵子、『ロング・グッドバイ』、川島雄三監督

立場が逆転する映画すき。
原作も良かった
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