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名も無き世界のエンドロールのSTAYGOLDぴあ映画生活のレビュー・感想・評価

3.7
昔物語
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私を忘れないで。

さみしさとさびしさ。そう、似ている様で全く違う。純粋だった想いに濁りを生じさせて、何かを変えようとする。ただ、濁点しか違いが無いはずなのに。

同じハートを持った三人の幼馴染がたどるエンドロール。3人のメインキャラの、誰の目線で同化するかで感じ方は変わる。押しボタンを押すかどうかで。どちらの立ち位置を選ぶかで。それぞれの生き方のエンドロールがずれてゆく。

幼馴染のひとり、ヒロインである、ヨッチを演じる山田杏奈は手堅い演技。ただ、さまよう振り子であり迷子の子犬の役割としては子役のほうが上手かった。「小さな恋のうた」で魅せた凄まじい輝きに比べると物足りない。彼女は、まだこれからだろう。

「演技は好きだけど映画はキライ。だって楽しいものも哀しいものも必ず終わりがある。泣きたくなるから…」エンドロールにひっかけた、これだけ強いことばを普通に話すヨッチのさみしさは、芝居では補えない経験という名の年輪が必要だ。

マコトを演じる新田真剣佑は、明るさと影をまずまずうまく醸し出していた。だけど、やはりノシ上がる際のケダモノのギラツキと決着に向けて走るさびしさを、もっともっと表現できたのではないか。能面の演技では空気と雰囲気で魅せなければならない。まだまだオーラが蒼くて若い。やはりこれからだろう。スタイリッシュではある。しかし寝かせが足りないワインと同様、やはり旨味やコクが物足りない。ワインを扱うカイシャの社長が手段になったのは深すぎる。

私的には、やはり常に二人を受け止め続けたキダに惹かれる。キダの浮かべるモノ哀しくなにか言いたげな表情が岩田剛典というキャラクターとうまく同化していた。見つめ続け守り続けること。一番きつくてつらくてせつないポジションだが、でもそれこそが自分にしかできない誰かのために何かを。自分のためには生きられないからこそ、どんな困難にも耐えられる。一人ぐらい、そういう奴がいてもいい。

あとは、自分本位でお高いモデル、政治家の娘リサ役の中村アンは良かった。キャラが似合い過ぎだし、全く違和感がない。これぐらいワガママで高飛車で、きちんと怒りや憎しみを躰で受け取れるヒールキャラを演じられるのは強みだ。もっともっとヤッてもいい。嫉妬という名の羨望を受け取れる美しい顔と肢体は素晴らしい武器なのだから。見下ろせばいい。踏みつければいい。そうすればするほど、下から怒りの炎で見上げる役者の瞳がもっと光る。

サブキャラもなかなか濃くリサの父で政治家役の石丸謙二郎。キダが働くことになる裏社会の仕事を受ける組織の長役の柄本明もギトギトなコッテリ感を見せつける。

そして、田舎の寂れた自動車修理工場でキダとマコトを雇う社長役の大友康平。まー、大友はいつもながらくたびれたツナギや情けない表情が似合う。はからずもモデルに捨てられてドン底まで落ちた20代の大友の姿が、輝くリサの姿に何度も重って見えてしまった。大友もカイシャに裏切られ、仲間を失い一人ぼっちの野良犬として最後のダッチロールを繰り返している。彼も65歳。この映画のキラキラ光るリサを見て何を思うのだろう。

ホンはしっかりしているが、時間軸のつなぎがぎこちない。もうすこしやさしくなめらかにつないであげれば、もっともっと、すっと世界に入れると思う。そこが惜しい。

だが、それでいい。そのぎこちなさも若さ。
オマエとアイツとオレ。
スマホ越しではなく、こんな関係を持てる若者が増えることを願う。
世界が断絶されている今だからこそ。

公開当時、手前の席で観てた制服姿のJK二人は岩田くんのファンかな。二人には彼の姿がどう見えたのだろう。気になる。今の感性で、ぜひ多くの若者に感じて欲しいものだ。

そう。だからこそ。
いつだって答えは 遥か彼方にある
それが映画なのです。

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