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スパイの妻のjilljunのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.5
NHKが4K8Kのために製作した映画。
このパターンは
ユ・アインくん主演の「バーニング」
(イ・チャンドン監督作品)と同じ。
私は「バーニング 劇場版」が大好き、
NHKやるなあ!と感動した経緯もあり、
こちらの公開も楽しみにしていた次第です。
太平洋戦争前の裕福な夫婦の暮らしぶり、
当時のセレブならではのほぼ西洋の生活様式、
幸せで文化的で美しい。
なのに漂う不穏な影…
これこそ、黒沢清監督の持ち味、
グレイッシュで見づらいとさえ感じる画面がもう既に独特。
この画面造りが好きか嫌いか、理解できるか否か。
もうそれだけでこの作品への
嵌り方が変わってくると思います。
私は結構好きなんです。
黒沢監督の画面。
大事なシーンのキャストの顔の明暗。
あからさまに描き出される光と陰。
暗示される展開。
シーンごとのリアルな風の音、
隙間風だったり、海の風音だったり。
音、音楽による不安感の増幅。
壮大なロケーションもなく、
とってもこじんまりしていて日本的。
だけど、紛れもない黒沢ワード。
これが、監督賞受賞の所以でしょう。
古い日本映画のようでもあるのに、
オリジナリティも感じます。
もちろん、お話はしっかり筋が通っています。
伏線収集もちゃんとしていれば、
想像に任せる部分もある。
私は途中で何となく、
仕掛けに気づいてしまったけど、
意外性を感じる方もいるでしょう。
この時代にあっては破天荒な聡子という女性。
蒼井優ちゃんにぴったりなキャラクターでした。
彼女のお洋服、かわいかった。
若くして大義を持つご主人、
優作さんは高橋一生くん。
読めない雰囲気の彼は、ベネツィアの関係者にはどう映ったのでしょうか。
脇の方々の匿名性もいい。
この2人の、というか、
聡子の優作への愛がとても好きでした。
そして、聡子の全てを把握し、愛を注ぐ優作。
2人のお互いへの愛がこの物語の鍵なんです。
久しぶりに見た東出昌大くんの、
後半の演技が印象に残りました。
彼はこういう感じのバイプレーヤーで行くととてもいいな。
いろんな戦争の描き方がありますが、
この作品もまたそのひとつ。
きっと近々、NHKのどこかのチャンネルで放送されるはず。
少しドラマっぽいというか、
スケールに欠けてしまったのは、
私的には残念な部分でした。
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