ベンジャミンサムナー

スパイの妻のベンジャミンサムナーのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.5
 「お見事ォっ!!」

 今映画館は『鬼滅』目当ての人たちでごった返しているが、こっちはこっちで年配の観客がたくさん入っていた。

 聡子が最初に優作に詰め寄る場面で影のコントラストを強めたり、要所要所で絶妙に暗い空間を出してきたりといった従来の黒沢清演出で最後まで緊張感を持続させている。
 中でも「物語上重要な小道具は予めクローズアップで映す」という"ヒッチコックの法則"を、本作ではチェス盤に対して「引きの画でピンポイントに照明を当てる」と変則的に用いてるのが秀逸だった。

 だが、退屈はしないが見終わってそこまで感情を大きく揺さぶられる事はなかった。

 まずは、聡子が趣味でスパイ映画を撮っているという設定がストーリーの中で浮いているのと、その劇中劇がラブロマンス仕立てなので「じゃあ本作はその逆を行くのね」と、終盤のフィルムすり替えが早い段階で読めてしまうところにある。
 あとは泰治の存在が終盤唐突に宙ぶらりんのままになってしまうこと。
 女中と執事の存在も、バレるかバレないかのサスペンス要素に活かせそうなところを、ほとんど物語に機能させずじまい。

 今のところ自分が観てきた黒沢清作品は好きなものとピンとこないものの割合が五分五分といった感じ。
 個人的には前作の『旅のおわり世界のはじまり』の方が好き。(一番好きなのはベタだけど『CURE』)