1982年のジャン=ピエール・モッキー監督作品。彼は子供の頃マルセル・カルネ監督『悪魔が夜来る(1942)』にエキストラとして出演して映画と関わりを持ってから1959年に『今晩おひま?』長編監督デビューし、2019年に亡くなるまで数々の作品を撮っており、フランス映画の監督で最も独創的で、最も多作で、最もアナーキーな人物と評されている。映画史的な彼の立ち位置として、中心であり周縁であり特異な存在でもあった彼は多くの場合、自主制作での低予算、早撮りを行い、自分の撮りたいテーマを外部の横槍なしで撮ってきた稀有な映画作家である。 初期はコメディが多かったモッキーだが1968年の5月革命の幻滅からブルジョワや政治家を攻撃する作品や犯罪映画が多くなっていく。本作『Y a-t-il un Français dans la salle?』も有力政党の党首が主人公の物語である。
この作品のキャスティングの時期は1981年のフランソワ・ミッテランが勝った大統領選挙の直前だったこともあり、フィリップ・ノワレ、イヴ・モンタン、ジャン・ロシュフォールに断られたようだが、ヴィクトル・ラヌーの無表情な芝居は邪悪さと幼稚さを孕んだトゥムラに非常にマッチしている。 1983年にはモッキーは同時代を生きてきた伝説的な映画監督ジャン=リュック・ゴダール監督の『カルメンという名の女』にほんの少し出演している。ゴダール自身が映画監督として出演しており、精神病院に入院しているという設定なのだが、その精神病院の患者として映画の冒頭に数秒間だけ出てくるのがモッキーだ。そこで彼が放つ言葉が「Y a-t-il un Français dans la salle?」で5回ほど繰り返すのだが、これは本作のタイトルそのものであり、伝説的な2人の映画監督の良好な関係性が垣間見える瞬間と言えるだろう。