SANKOU

海辺の彼女たちのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

外国人労働者に対して契約違反や、長時間労働、賃金未払いなどで告発される悪質な企業の姿は良くニュースでも耳にする。
同じ日本人同士でもブラック企業が未だに数多く存在するように、改めてこの国の労働に対する闇は根深いと感じる。
映画はベトナム人のアン、ニュー、フォンの三人の若い女性が、身を寄せ合うように荷物を担いで夜道を走っている姿から始まる。
後に彼女たちは技能実習生として日本にやって来たものの、不当な扱いを受けて仕事先から逃げ出して来たのだということが分かる。
前の職場を逃げ出してしまったので、彼女たちは不法就労者となってしまう。
不法就労者の問題は深刻だが、特に安い労働力で利益を出したいと考える雇用主があまりに多いことが大問題だと思う。
だから正規のルートで日本に入国しても、彼女たちのように不法就労者となってしまうケースもあるし、例え不法就労者であろうと安く使おうとする雇用主がいるから、保険証や在留カードを偽造する連中も現れる。
どこから問題を解決すれば良いのか分からないほどに複雑な問題になってしまっているが、これが日本の現状なのだと直視しなければいけない場面が多かった。
彼女たちに100%肩入れ出来るわけではなかったし、自業自得といえる部分もあったが、それでも目の前で困っている人間がいれば助けたくなるのが人間の心情だと思った。
彼女たちは病気で仕事を休んでしまえば、その分収入がなくなってしまう。
正規でないということはそれだけ守ってくれるものが少ないということだ。
フォンは体調を崩してしまうが、収入がなくなることを恐れて無理をして働こうとする。
ニューとアンは彼女を病院へ連れていくが、在留カードと保険証がないため診察を断られてしまう。
病院の対応は真っ当なものなのかもしれないが、何ともやりきれない思いになる。
やがてフォンは自分の口から妊娠しているかもしれないことを二人に話す。
不法就労者の彼女にとっては子供を産むにしても、堕胎するにしても大きな問題だ。
彼女はすべてを一人で抱え込み、高いお金を払って偽造した在留カードと保険証を手に入れてしまう。
偽造した保険証が出回ることは許されないことだが、フォンの事情を知ってしまうと複雑な気持ちになる。
お腹にエコーをかけられたフォンが、一言「小さい」と言って涙を流す場面には心が痛くなった。
この映画は数多くの問題を提起するが、それに対する解決策は得られないままだ。
だから上映中はずっと感情を揺さぶられ、考えさせられることが多かった。
保険証を受け取ったフォンが病院へ行くまでの姿を長回しで撮した場面や、二人の元に戻ったフォンが堪えるようにお椀に注いだ汁物をすする場面がとても心に迫るものがあった。
同じような思いをしている外国人労働者が大勢いることを思うと、どこに怒りをぶつけていいのか分からなかった。
今の日本は彼らの労働力なくしては成り立たないというのに、どうして自分の利益しか考えられない雇用主が大勢いるのだろうか。
ラストにフォンが飲んだ薬は、子供を堕ろす方の薬ではなく、病院で処方された食道炎の薬だったろうか。
だとしても問題は何も解決してないが、一筋の光を感じさせる終わり方ではあった。
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