このレビューはネタバレを含みます
映画という表現媒体において最も難易度が高い、「人の不在」を描くことに奇跡的に成功している作品だと思う。
フランシスマクドーマンドの一挙手一投足から、亡くした夫との過去が見え、それによって夫の不在が痛い程浮かび上がってくる。
彼と彼女はどんな時間を過ごし、どんな感情を共有したのか。その歴史の分厚さ、尊さがマクドーマンドの存在を通してカメラに映っているという奇跡。
劇中で読み上げられた詩の如く、夫に対する永遠の愛が彼女の存在のうちに宿り、映像に焼き付けられる。
並の監督なら回想シーンで説明しちゃうところだが、クロエジャオ監督はそんな不粋なことは一切やらずに表現し切ってしまった。
小津ですら、まずは人が存在している状態を見せてから不在にしてるんだよ?