MURANO

ノマドランドのMURANOのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.3
『わたしは、ダニエル・ブレイク』『万引き家族』『パラサイト』と、ここ数年、各国で格差社会をテーマにした作品が評されたが、『ノマドランド』はそのアメリカ版。

アメリカは国土が広大なので、貧困層を描く上でも車が必須になるんですね。それゆえ映し出される景色が、まず圧巻。

冒頭いきなり、フランシス・マクドーマンドが野外で座り込んで用を足すシーンが出てくる。誰もいない、広大な荒野の中で。

そこで「NOMADLAND」というタイトルが静かに表示されるのだが、それを見て、この映画は絵がしっかり語るなぁと、ゾクっと来ました。

ヴァンの中で寝泊まりして、広いアメリカを移動しながら生活している、主に白人高齢者である「ワーキャンパー」。

彼らの生活様式をドキュメンタリー風に描いていくため、最初は社会問題を炙り出す、痛切な内容になっていくのかなと思いながら観ていました。

駐車代を負担したうえでワーキャンパーを短期で雇ってるのが、繁忙期で配送の手が欲しいAmazonだということがサラっと描かれると、やっぱドキっとする部分があったので。

ただ、貧困をテーマにしてるのに、辛い方向に行くのではなく、優しく受け止めてくれるような仕上がりになっているのが、実はこの映画の凄いところ。

社会の変化や歪みによって、ノマドとして放浪する人々は皆、何かしらの傷や痛みを抱えている。

だが、それはあなたが悪いんじゃないよと、優しく寄り添ってくれる感じなのです。

この題材で希望を感じさせてくれるとは、風刺や批判の意図が強いものよりも、逆に響く部分がありました。

「私はホームレスじゃなくて、ハウスレス」という力強いセリフが出てくるが、これが観終わったあとで一層深く感じられます。

あと、フランシス・マクドーマンドはやっぱりスゴいなぁ。

『スリー・ビルボード』のように強烈なインパクトを与える熱演をしているわけではない。

でも、出演している周りの役者さんは実は役者ではなく、実名出演している実際にノマド生活をしている人々という環境の中で、彼女も完全にそこに溶け込んでいて。

一見違和感なさすぎて普通にすら思える、そのノマドらしさこそ最高の名演技だったと、観終わってから気付かされました。

アカデミー賞では、この映画が作品賞を獲るでしょう。映像美、テーマ、演技のどこを見ても、それに値する作品だと思います!
MURANO

MURANO