ハニー

ノマドランドのハニーのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
詩のような映画。言ってみれば映画詩です。スクリーンで観ることをおすすめします。

”車上生活をしながらアメリカ中を転々として低賃金労働に従事し、日銭を稼ぐ高齢者の話”

という、重く苦しいテーマを扱ってはいるのですが、暗くなりすぎず、かといって上辺だけの明るさにも逃げず、そこにある”現実”が見事に映像化されていると思いました。監督、素晴らしいです。

なぜそれが可能になったのか。主演のフランシス・マクドーマンドの力が大きいのに加え、俳優ではなく本当にホンモノの、ノマドの方々が出演されているということもあると思いますが、もうひとつは、この映画が「生活体験映画(そんなジャンルあるのか)」だからでしょう。

映画はまるで、彼女との生活を隣で1年間覗き見するような雰囲気で進みます。客観的視点と主観的視点を織り交ぜながら。
そこで彼女が体験する様々なことを、僕たち観客も一緒に体験します。

体験しながら、主人公であるファーンに、そして僕らに問いかけられているものは驚くほどたくさんあります。

たとえば人生。生きること死ぬこと。出会いと別れ。思い出。残るもの、消えゆくものについて。
たとえば大自然と人の営みについて。鉱物。星。砂。水について。
たとえば労働について。社会格差、経済格差。低賃金労働と不動産による不労所得について。
そしてたとえば愛について。家族について。”家(home)”について。

これら様々なことについて、ある人はAという道を歩み、ある人はBという道を歩みます。
ある人はCという価値観を語り、ある人はDという決断を下します。

それらに対し、僕ら観客も何がしかの感想を抱くでしょう。ファーンも、もちろんそうです。

そのいずれに対しても、彼女の見せる複雑な、しかし決然とした表情が本当に素晴らしいです。名付けようのない感情。あるいは、「どんな感情にも居着かない表情」とでも言えるかもしれません。

それがとても素晴らしいと感じました。

映画のラストに近づくにつれ、彼女が、どんな決断をくだすのか。どんな道を歩もうとするのか、気が気ではありません。一緒に主人公の人生を生きる。映画って本当にすごいですよね。



映画を観た後で、原作に触れたり、アメリカの社会情勢について少し調べるのも、良いかもしれません。

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おまけです。
映画冒頭で、ファーンが口ずさむ、イギリス民謡の『グリーンスリーブス』。
どうしてこの歌なんだろう?と思いましたが、映画の終わり頃になって、「ああ、こういうことかな」と思いました。
勝手な妄想ですが。
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ハニー

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