この映画には、特別に変わった人物が出てくるわけではない。
大切な人と死別したり、少し人生に疲れたり、長年の生活の場を奪われたり、小さなきっかけで誰もが通り得るであろう人生の旅路が、美しい砂漠と季節の移り変わりとともにファーンの暮らしを通して描かれている。
広大なアメリカを旅しつつ、不安定ではあるが慎ましく、助け合いながら生きていく。
誰もが抱く将来への不安や孤独。ずっと躓いたままの家族との関係。
ノマドな暮らしはさよならは言わない。
数ヶ月後、数年後にまた会うことがある。
そうすればもう会えないはずのあの人とも、また会える気がする。
定住しないからこそ見出せた救いや希望が静かに描かれていて、マクドーマンド演じるファーンが逞しくも慎ましく生きていくのだと思うと、自分の心も軽くなった気がした。
