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Dawson City: Frozen Time(原題)のROYのレビュー・感想・評価

Dawson City: Frozen Time(原題)(2016年製作の映画)
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『ドーソン・シティ:凍結された時間』

メアリー・ラティモアのアルバムレビューでこの映画が出てきたので気になった。

■INTRODUCTION
『Dawson City: Frozen Time』は、記録映像を用いながら物語が展開していく。1910年代から1920年代までの約500本のフィルムは、50年以上行方不明になっていたが、1978年にユーコン準州にあるプールに埋められているのが発見された。(MUBIより)

■STORY
『ディケイジア』のビル・モリソン監督が描く、映画史についての瞑想。長い間行方不明になっていた、1900年代初頭の533本のナイトレート・フィルムのコレクション。このフィルムが映した奇妙な実話をもとに構成されている。カナダのゴールドラッシュの町で永久凍土の下に埋もれていたフィルムが発見され、その物語は、「北米の新興映画産業とマニフェスト・デスティニー」の忘れられた関係を思い起こさせる。

北極圏の南、約350マイルに位置するドーソン・シティは、大型映写機が発明された1896年に入植し、10万人の探鉱者が訪れたクロンダイク・ゴールドラッシュの中心地となった。その後まもなく、この街はプリントやニュース映画(newsreel)をユーコンに送る流通網の終着点となった。フィルムが戻ってくることは滅多になかった。1920年代後半には、50万フィート以上のフィルムが地元の図書館の地下に蓄積された。その多くは最終的に町のホッケーリンクに移され、そこで積み上げられ、板と土の層で覆われた。現在では有名なドーソン・シティのコレクションは、1978年、新しいレクリエーションセンターの建設中に、駐車場で作業していたブルドーザーがフィルム缶の大群を掘り起こしたときに発見された。

モリソンは、永久凍土で保護されたこれらの貴重なサイレント映画やニュース映像を、記録映像、インタビュー、写真、そしてSigur Rósのアレックス・ソマーズによるスコアと組み合わせていり。本作は、このカナダのゴールドラッシュの町のユニークな歴史を、1つのフィルム・コレクションの亡命、埋葬、再発見、そして救済までのライフサイクルを描くことによって表現している。(予告編詳細欄より)

■NOTE I
メアリー・ラティモア(Mary Lattiomore)のアルバム『Collected Pieces: 2015-2020』について

_2020年に録音された「What The Living Do」は、Marie Howeの同名の詩からインスピレーションを得ており、人間であることのありふれた雑感への感謝を通して喪失について考察しています。エコーがかかったスローマーチのトラックは、リスナーがその外側にいて、人生が映画のように展開するのを眺めているような、遠い感じを感じさせる。『Princess Nicotine(1909)』は、J・スチュアート・ブラックトンのシュールなサイレント映画「Princess Nicotine」か『The Smoke Fairy』のためにラティモアが想像した夢のシーンを音像化し、MVで実際の映像で表現したもの。『Polly of the Circus』も同じ手法で、ユーコンの永久凍土で発見された古いサイレント映画(ドキュメンタリー映画『Dawson City: Frozen Time』に収録)の名前からとったもので、「唯一残ったコピーで、経年変化でちょっと歪んでいる」と説明している。

↑「現代アンビエント・ハープの珠玉の才能Mary Lattimoreの集大成レアリティ音源集『Collected Pieces: 2015-2020』がリリース決定」『Plancha』https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/

■NOTE II
◯ビル・モリソン(1965-)はアーカイブ映像を使い現代の作曲家とコラボレートすることで知られるアメリカの映像作家で、MoMAで回顧上映も行なわれた。日本では代表作『ディケイシャ』(2002、67分)が2014-16年の巡回プログラム「ニューヨーク近代美術館映画コレクション」展の1本として上映されている。本作は2016年のヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門でワールドプレミア上映され、ロンドン映画祭、ニューヨーク映画祭等でも上映された。

◯1896年、ジョージ・カーマックとトリンギット族の妻ケイトらがカナダ・ユーコン準州のボナンザ川で金鉱を発見したことで「クロンダイク・ゴールドラッシュ」が始まった。そのゴールドラッシュで発展した街ドーソン・シティで70数年後、地中に埋もれていたフィルム500本が50年振りに発見され修復復元された。その貴重なサイレント映画のナイトレート(可燃性)フィルムをもとに、その他の当時の写真や映像も組み合わせ、ナイトレートフィルムの歴史とドーソン・シティの歴史が語られる。ゴールドラッシュによって立ち退きを迫られた先住民は故郷を失い、10万人もの採鉱者たちがクロンダイクを目指したが、実際に金を掘り起こしたのは4000人と言われる。採掘権はごく初期の一部の人間に押さえられ、厳しい道を越え辿り着いたものの掘ることが叶わなかった人々は採鉱者相手の商売を始める。後にチャイニーズ・シアターなどを創設する興行師シド・グローマンは幼い頃ドーソンに父と共に渡り、エンターテインメントに飢えた人々にボクシングの試合などを企画し成功を収めたという。またドナルド・トランプの祖父がこの街で経営した娼館がトランプ一族の財を築くきっかけになったというエピソードは現代とゴールドラッシュ時代の距離を縮めさせる。

ナイトレートフィルムの原料であるニトロセルロースは火薬の原料でもあり、火災事故は珍しくない。ドーソンでも火事は記録されている。ナイトレートフィルムが原因の世界初の火事はパリのバザール・ド・ラ・シャリテの惨事(1897年)だった。

アレックス・ソマーズによる音楽は、執拗に反復されるテーマが腐食により乱れた映像と相まって醸し出す郷愁感が、忘れていた古い記憶を思い出すような感覚に似ている。遠い過去ではあるが、確かに存在した街を近くに感じる。

◯カナダのユーコン準州の奥深く、アラスカの国境近くという辺境の地で永久凍土の中に埋もれていた大量のフィルムが水泳用プールから発掘された。その地の名はドーソン・シティ。1910年代から20年代にかけて、金の発掘で一攫千金を夢見た人々が世界各地から集まって来たことで隆盛を極めたゴールドラッシュタウン。そんな街のまさに繁栄を謳歌していた時代の姿が、フィルムと共に50年以上の眠りを経て我々の前に姿を現した。

フィルムの内容は活気に満ち溢れた街と多様な住民の姿を捉えた記録と、当時の街の施設で上映されていたサイレント映画だった。サイレント映画も、ドーソン・シティと同時期に黄金期を迎えていた。

しかし黎明期の映画フィルムには、非常に発火しやすいという致命的な欠陥があった。そのため結局は燃えて跡形も無くなってしまうか、保有者自らの手で廃棄されていた。プールに納まっていたそれらもやはり廃棄されたものだ。そもそもそれらは発掘されるまで、存在を抹消されたことすら知られていなかった。本編に使用されている映像に焼き付いた生々しい焼け跡によって、かつて人々を楽しませたサイレント映画が受けた残酷な境遇を伺い知ることができる。街そのものも、度々火災に見舞われながら可燃性フィルムよろしく徐々に消耗していく。殺到していた採掘者はあっという間に地を離れ、新しく作られた国道からは外れ、最終的にはかつてサイレント映画を上映していた施設も姿を消す。この映画はドーソン・シティ、そしてサイレント映画が如何にして没落し世間に忘れ去られていったかを漸進的に描いている。

全編にわたって記録に荘厳な雰囲気を落とし込むアレックス・ソマーズによる音楽と、発掘された貴重な映像の断片と共に、消え去った人々の文明の記憶を辿る120分だ。

↑「Image Forum Festival 2017レポート」『多摩美術大学芸術学科』2017-05-27、https://www2.tamabi.ac.jp/geigaku/image-forum-festival-20171/

■NOTE III
ビル・モリソンは当初、12分間の映画『彼女の映画』(1996年)と同様のプロジェクトを想定していたが、時間が経つにつれてより広い範囲を想定するようになった。「ドーソン博物館」と「パークス・カナダ」の職員であるキャシー・ジョーンズとマイケル・ゲイツは、それぞれ「Dawson City Film Find」の初期の権威であった。モリソンは、2014年に両者にインタビューしている。元々彼はこのインタビューを最終的な映画に入れるつもりはなかった。 モリソンは、バンドのシガー・ロス(Sigur Ros)が彼の前作『ディケイシャ』のファンであることを知り、作曲家としてアレックス・サマーズ(Alex Somers)を採用することができた。

↑英語版Wikipediaより

■COMMENTS
制作会社HPに記載されていた情報を抄訳してみました(https://note.com/roy1999/n/nd6fe179b358d)
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