なつ

ナショナル・シアター・ライヴ 2020 「シラノ・ド・ベルジュラック」のなつのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

他人が思う以上に自分の容姿を醜いと卑下する、
勇敢な軍人であり、言葉を操る才に長けた詩人シラノ。

美しく聡明なロクサーヌは、その圧倒的美しさが故に、己の容姿を讃える男を見下している。しかし彼女も容姿が美しい男に一目惚れする。

田舎出身だが、度胸があり、若く容姿がいいシラノの部下クリスチャン。その容姿故にロクサーヌと恋人になるが、口下手であまり賢くない。

皆が皆、容姿に囚われ孤独だ。

クリスチャンは、ロクサーヌがほんとうに愛しているのは、己ではなくシラノの心であることを知ったがために、自暴自棄とも思える戦死を遂げる。

ロクサーヌは、夫クリスチャンの死後10年以上経って、彼を心から愛し、価値観さえ変えた情熱的な言葉や手紙が、シラノの書いたものであると聞かされ、ずっと騙されていたことを知る。

シラノは、どんなに言葉を尽くそうとも、それはクリスチャンの影武者として。己の死期を悟り、騙していたことをロクサーヌに告げるが、もはや時間は残っていなかった。

みんながつらくて悲しい。

マシンガンのように放たれるマカヴォイの言葉。
ロクサーヌへの想いを紡ぐ声、視線、表情。
ほんとうに素晴らしかった。
繊細さと豪胆さと孤独が、迸っていた。

美しく情熱的な言葉を操れるシラノが
ただただ「きみがほしい」と語るシーンは
胸が締め付けられた。
手紙を破かないでほしいと懇願する場面では
涙が溢れた。
あれは彼のロクサーヌへの愛のすべてだから。
たとえ署名がクリスチャンであっても。

休憩はなくてもいいくらい、あっという間の3時間だった。
来世ではみんな幸せになってくれ…
なつ

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