このレビューはネタバレを含みます
他人が思う以上に自分の容姿を醜いと卑下する、
勇敢な軍人であり、言葉を操る才に長けた詩人シラノ。
美しく聡明なロクサーヌは、その圧倒的美しさが故に、己の容姿を讃える男を見下している。しかし彼女も容姿が美しい男に一目惚れする。
田舎出身だが、度胸があり、若く容姿がいいシラノの部下クリスチャン。その容姿故にロクサーヌと恋人になるが、口下手であまり賢くない。
皆が皆、容姿に囚われ孤独だ。
クリスチャンは、ロクサーヌがほんとうに愛しているのは、己ではなくシラノの心であることを知ったがために、自暴自棄とも思える戦死を遂げる。
ロクサーヌは、夫クリスチャンの死後10年以上経って、彼を心から愛し、価値観さえ変えた情熱的な言葉や手紙が、シラノの書いたものであると聞かされ、ずっと騙されていたことを知る。
シラノは、どんなに言葉を尽くそうとも、それはクリスチャンの影武者として。己の死期を悟り、騙していたことをロクサーヌに告げるが、もはや時間は残っていなかった。
みんながつらくて悲しい。
マシンガンのように放たれるマカヴォイの言葉。
ロクサーヌへの想いを紡ぐ声、視線、表情。
ほんとうに素晴らしかった。
繊細さと豪胆さと孤独が、迸っていた。
美しく情熱的な言葉を操れるシラノが
ただただ「きみがほしい」と語るシーンは
胸が締め付けられた。
手紙を破かないでほしいと懇願する場面では
涙が溢れた。
あれは彼のロクサーヌへの愛のすべてだから。
たとえ署名がクリスチャンであっても。
休憩はなくてもいいくらい、あっという間の3時間だった。
来世ではみんな幸せになってくれ…