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空に住むのchanmoreauのレビュー・感想・評価

空に住む(2020年製作の映画)
3.4
公開時は見逃して配信で初見
これが青山真治の遺作なのが色々悲しい😭

全ての青山作品を観たわけではないけど
彼の映画は大体において「正しい」
この状況ならこのフレームサイズだな
このカットならこの長さだよなとは思う
予算やキャスティングには限界を感じるけど
与えられた環境の中では「正しい」
その最大の成果はやはり『ユリイカ』だろう
ただその律儀なまでの「映画的正しさ」は
世間一般が求める「分かりやすさ」とは
時に、いや多くの場合相反する
そして「正しさ」が時に窮屈にもなる

本作を事前情報無しに見始めて
なかなか良いじゃないかと思っていた
終盤までは😅

タワマンの高層階という空虚な舞台への
批評的視点
喪失感に満ちた主人公が空に住みながら
雲のように揺蕩い自分の足元を探る
そして物心ついた時から傍にいた猫こそ
自分の拠り所だったと改めて気づく

だか終幕にフルで流れるJSB3の主題歌
いや主題歌が流れるのが悪いんじゃない
一時期の角川映画のように決まり事でも
作品とマッチさえしていれば
岩ちゃんの演技だって悪くない
タワマン芸能人的な嫌味が良いし
寝転がってフレーム外のワインを
持って起き上がるカットとかも

本作はLDHが全ての製作費を出している
そもそも作詞家小竹氏の小説が原作で
彼の世界観からすればタワマンとは
空虚なだけの舞台ではなく
やはり一つの成功の証の場だろう
脚本を手掛けた青山は本作の企画を受けて
いかに自分の世界線に寄せられるか
考えに考えたに違いない

主人公には渋谷にあるタワマンから降りて
多摩川を電車でわたらせ
恐らく大倉山あたりの古民家風の
弱小出版社に通わせる
その舞台装置は魅力的だ
何度か登場する電車のカットは美しい
多部ちゃんはじめ脇役も良い味だ

でも終幕にタワマンで主題歌が流れると
この歌詞の世界観と主人公の感情が
あまりにも乖離していることに驚き
腰を抜かしそうになる😅
それはヤンキーとシネフィルの
どうしようもなく埋めがたい溝だ

青山はこの企画で撮らざるを得なかった
そして完成作は自分の色に染めきれなかった
返す返すもその早い死が悔やまれる
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