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ザ・フラッシュのdemioのレビュー・感想・評価

ザ・フラッシュ(2023年製作の映画)
4.8
1)序盤に見せる光速の走りに、息ができなくなるほど笑った。

2)強制的に想起させられたのはやはりリチャード・ドナー『スーパーマン』(ディレクターズカット版)だった。その有名なラストで、スーパーマンが成層圏を超えて地球の周りを(おそらく光速で毎秒7周)逆回転に飛ぶと、やがて地球がスーパーマンと同じく逆回転し始め、すると時間が過去へと戻り、直前にあった死の悲劇が起こらなかった世界へとビデオのように巻き戻されるというまさか作劇において到底許されないであろう解決方法で映画を締めくくるのだけど、つまりスーパーマンひいてはDCコミック映画は、アメリカが犯した罪やその報いによる傷および汚穢をすべて「なかったこと」にする癒しの作品であるというところに出発点を持ち、国民的アメコミはつねにリビジョナリズム(歴史修正主義)を国民から期待される枷を背負っている。そのことに近年のマーベル/DC映画は少なからず自覚を持っているだろうが(その最たる良心はLOGANだろうが)、かつてのスーパーマンと同じく、光速移動によって時間を操作しうるフラッシュが、その操作をしてもなぜか歴史の傷は治されず、かえって傷は別様により大幅に反復され、歴史それ自体の構造を破損することになると触知した末に「時間を戻してはならない。一度放棄しようとした死は、むしろ再び取り戻しに行かないといけない」という自戒をBTTFモチーフに乗せて訴えることでスーパーマン以来のアメコミ映画史を浄めにかかる態度に――ひいては「母の死」を取り戻しに行く場面に、しゃくりあげて泣いて感動した。
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