1958年に撮影されたアニエス・ヴァルダ監督による、記録のなかに潜む嘘への挑戦かつ、個人と政治の駆引きを収めた四つの短編映画(『オペラ・ムッフ』『La cocotte d'azur』『コートダジュールの方へ』『O saisons, ô châteaux』)のうちのひとつ、『O saisons, ô châteaux』は、ヨーロッパの各地に遺る「城」についての回顧/懐古の映画であり、ヴァルダ監督のひとつの側面である、写真家の顔がもっとも刺激的にあらわれた作品だ。荘厳な建築物の数々をめぐる本作は、一本の道から、そこに生きる人々のシワや外壁を通じて、画面に臭いまでもを収めようとした『オペラ・ムッフ(1958)』とは対照的に、遺されたまま、今も私たちのまえに聳える城々に倣うように設計された美しい構図と、異様にハキハキとした明るいトーンのナレーションと、によって紡がれる、20分の短編作品だ。 陽の光を一身に浴び、風の膨らみを目で追うような映像たちは、観ている僕の肌身に訴えてくる。それは『ラ・ポワント・クールト』から一貫してヴァルダ監督が取り組むひとつの問い──「記録」と「物語」の境目を探る冒険の局地にながれつく。しかし、決してこの映画は内省に閉じることはない。アニエス・ヴァルダ氏が撮る「シャシン」たちは氏のユーモアをふんだんに交えながら、創造の雄弁さを僕らに共有する。