垂直落下式サミング

キャッシュトラックの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

キャッシュトラック(2021年製作の映画)
4.0
現金輸送会社の警備員として雇われ、現場にやってきた謎の新人ステイサム。輸送を襲ってきた強盗たちを事も無げに射殺。さらに、別の日に襲ってきた強盗にいたっては、彼の顔を見るなり踵を返すように逃げ去った…。彼はいったい何者なのか!?
キャッシュトラックという邦題は、本作の内容を端的にあらわしていて、ちょいネタバレ気味な原題を意訳するよりもよかったと思う。
眼を見張るのは、現金輸送車が強盗の襲撃を受け、扉を破られスタングレネードを投げ込まれ制圧される過程を定点ワンカットでみせるところ。オープニングがすでに映像としてハイセンス。車の外で何が起こっているのかぜんぜんわからないが、だんだんこれがことの発端であるとわかってくる。
序盤は、謎の最強新人ステイサムの軽めなアクションと、彼は何者なのか?という謎で引っ張って、彼の正体をタネ明かししたあとで、さらに視点と時系列が切り替わり、強盗たちの素性にもフォーカスしていくのが面白いところ。
強盗たちがしっかり描かれるわりには、ちゃんと卑近な小悪党で安心。結局コイツらは、退役軍人がマトモな職に就けないという不満にかこつけて、退屈な日常をはなれてもう一度闘争のなかに身を置きたい欲求を満たしているのであって、表面的にはいい家庭人だったり、いい上官だったりしても、殺されても同情できないくらいには救えないやつだった。
軍隊仕込みの統率でいい仕事をしていたが、もともと一枚岩の裏家業ではないのと、ステイサムを敵に回したのが運の尽き。しっかり皆殺しにされてしまう。軍曹は厳しい上官ではあるが、戦友だった時の絆を信頼するあまり、勝手な行動をする青二才を野放しにして、計画にほころびを生じさせてしまうのが、人間そういうもんだよねって自然な心の動きとしてリアルに感じた。
その道のプロを敵に回した小銭稼ぎのチンピラという物語は、ガイ・リッチーお得意の対比構図。前作の『ジェントルマン』でも一流のワルと二流のワルが対峙するところになると画面が熱を増していたが、今回はプロはプロでもステイサムなので、現金輸送車強盗ごときじゃあ相手にならない。退役軍人というバックボーンがあってようやく対等。
銃撃戦となれば、動かざることステイサム。直立してスタスタ歩きながらパンパンパン!敵を前にした瞬間、突破することは確定して、まったく危なげすらない。
ステイサムは、骨太ハードボイルドも似合うが、チャラい演出とも相性がいい。アクションとドラマの両立を目指している映画には、ピッタリはまる。そういえば、この人はガイ・リッチー監督の初期作によって見いだされたんだった。『ジェントルマン』は気取りすぎなのが苦手だったので、このくらいの軽めのを作ってくれるくらいがちょうどいいかも。