カラン

女は女であるのカランのレビュー・感想・評価

女は女である(1961年製作の映画)
4.0
赤ちゃんが欲しくてたまらなくなり、24時間以内に子供を作りたいという女が、その恋人である男と夜な夜なもめて、さらに別の男と絡む話。


ゴダールが「『突然炎のごとく』(1962)がトリュフォーにとってそうであるように、これがわたしの本当の処女作なのです」と語ったとか。処女作には作家の全てがあると言うが、アンナ・カリーナやジャン=ポール・ベルモンドの出演や鮮やかな色彩設計は後のゴダール作品に繋がるものである。また、ミュージカルへのオマージュというのかパロディというのか、あまりうまくない歌がミュージカル的に挿入される。また、ダンスというよりは寸劇的な珍妙な運動も挿入されるのも、後のゴダール映画につながる特徴に溢れている。


☆挑発①

劇中で頻繁になされるカメラ目線は、ご存知のように通常「カメラを見るな」と役者やエキストラに指示が出されて、映画では避けられるものである。これはカメラ目線は鑑賞者に自分の見ているものが作られた映画なのだと意識させることになってしまうからである。人は美しいものは作られたものではなく、最初から自然に美しいと思いたいのである。

こうした素朴な眼差しに対して挑発的に振る舞い、カメラ目線によって、自然の美の自然な撮影ではなく、撮影の撮影のなかに新しい何かを描いていこうとするのは、いかにもゴダールらしいだろう。素朴な鑑賞者にとって、映画のスクリーンはスクリーンではなく、自分の世界の延長である。ゴダール映画はそのような鑑賞者の世界観と映画が融合し1つに溶け合うことで、夢中になれるし、映画が終わると夢から覚めたように、もとの現実に鑑賞者を帰してくれる映画に抵抗するのである。


☆挑発②

ウーマンリブは女が男の奴隷として、家事では妻であったり、閨房では娼婦であったりする事態の打開をはかる。特に、「種の保存」という生物学的な概念を、妻であったり娼婦であったりする女に、ごり押しする事態を解明すること。人間学的、社会学的なものと生物学的なものからなるダブルスタンダードを抱えて、深いところから矛盾している文化の解明と、その犠牲者としての女の救済をフェミニズムは主張するはずである。

この映画の女はストリップダンサーであり、子を産みたがっている。この女はフランス語をいまいち分かっていない、お馬鹿な女である。料理は焦がす。エミールという名の恋人に向かって「共産主義者!」と言う、というか、指す。フェミニズムと共産主義は矛盾しないし、少なくともこの時代のフランスでは結束していたはずだ。

さらに、この映画のタイトルは『女は女である』なのである。フェミニズムは「女は女として生まれない」、「男が男である」、それ故に常に「女は女でいられない」、女は疎外されて自分を見失っていて、女であることが不幸なことと等価になっているのだと考えるだろう。

明らかにゴダールは挑発しているのである。


☆アンナ・カリーナ①

壁にもたれてマスカラを溶かしてべそべそ泣いているバストショットから、「これじゃあNGか」とつぶやく。顔はぐちゃぐちゃ。この素っ頓狂な映画のなかにあって、極めて自然で素朴な、ごく常識的な意味で映画らしいシークエンスになっている。


☆アンナ・カリーナ②

カフェでベルモンドといて、トリュフォーオマージュをしつこくやる。その後、恋人ではない男と子作りをする。子作りしにカフェをでる前に、ベルモンドが2人の男に手紙を送って、宛先を取り違えてしまったと勘違いからあわてる女の話をする。次に、ジュークボックスでシャルル・アズナブールをたっぷりかける。

この時、情感溢れるシャンソンに乗せて、ごく常識的な意味で、映画らしいモンタージュが始まる。アンナ・カリーナの可愛くなく、むしろ、悩んでいる様々な表情をカットしながら繋ぎ、その間に、ベルモンドの嘘くさくて情けない顔や、恋人が他の女といる白黒の写真や、ジュークボックスの『ピアニストを撃て』のジャケットを乗せたレコードプレイヤーの回転のショットが挟まれる。このシーンはアンナ・カリーナのショットが大半だが、短く切って次々に繋いで、他の男と子作りするか悩んでいる女を見せる。

上記のアンナ・カリーナを中心にしたシーンは、映画の他の部分からは想像できないくらいに映画らしい映画になるようにモンタージュされている。そして子作りして、別の男と子作りしてきたと恋人に告白するのである。よく分からないが①と②は非常に魅力的である。



前半、ソフトフォーカスが行きすぎて、人物まで含めて画面の全体がもやがかかる。フィルムが劣化していて、代用できるフィルムも見つからなかったのかもしれない。が、わざとピンぼけ映像にしたのかも。不明。



一緒に観ていた嫁は楽しかったそうである。ミシェル・ルグランの劇伴はさすがである。

Blu-rayで視聴。
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