パイルD3

サン・セバスチャンへ、ようこそのパイルD3のレビュー・感想・評価

3.5
「PERFECT DAYS」の主人公は毎晩モノクロームの夢を見ていたが、この作品の主人公も何度もモノクロームの夢を見る。

ウディ・アレンの新作ながら、実は4年前の作品で、すっかり未公開作品になるかと思っていたら突然公開の運びとなりました。

サンセバスチャン映画祭を舞台に展開する、複数の男女の愛情のモヤモヤ、ジメジメ、グズグズをいつも通りのシニカルな視点で描く一編。
トレンド俳優のアンサンブルが賑やかないつものアレン作品より、やや地味目のキャストで、名脇役のウォーレス・ショーンが主演だから、ずっと未公開だったのか?と思いきや、違うところにもポイントがあった。

主人公は以前学校で映画の講師をやっていた小説家で、古典映画に詳しい人物ということで、アレン監督は今回、かなりマニアックな試みを披露する。
主人公が見る夢は、アレン監督がリスペクトするヨーロッパの巨匠たちの作品になぞらえた夢ばかり。
しかも、場面の再現というより撮影方法をそっくり真似たパロディ風のシークエンスで見せる。
「カメレオンマン」や「ウディ・アレンの夜と霧」でも似たような“遊び心“を盛り込んでいたのが思い出される。

出て来るアレン流リプレイ作品は、
オーソン・ウェルズの「市民ケーン」、
フェデリコ・フェリーニの「81/2」、
フランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」、
クロード・ルルーシュの「男と女」、
最も敬愛するイングマル・ベルイマンの
「仮面/ペルソナ」、「野いちご」、「第七の封印」
ジャン・リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」、
ルイス・ブニュエルの「皆殺しの天使」
といったクラシックばかり。

会話に出て来る作品や監督、映画用語も、「赤い砂漠」「クレールの膝」、前述のベルイマン、フェリーニ、トリュフォー、ブニュエル、ヌーベルバーグ、左岸派…といったヨーロッパ映画に関するものがほとんど。
ここ20年来ニューヨークから離れて、ヨーロッパを舞台に映画を作り始めたアレンの源流が一気放出される。

しかし、古参の映画ファンならまだしも、若い客層にはピンとこないものも多いだろうし、映画ファンでも何でも無い人からすれば、退屈なスキットばかりで、意味不明なものにしか見えないだろう。

この過度のプライベートムービー感が、公開見送りの理由だったんじゃ無いかと思う。
これを機会にクラシックに触れるという見方も無いわけではないが…?

いいセリフが出てきた。
主人公のオッサンが恋心を抱く女医を誘い出し、テラスで一杯交わすシーンで、女医が口にする、
「酒は身体には悪いけど、心には効くわ」

もちろん異議なし。
パイルD3

パイルD3