たくみ

大綱引の恋のたくみのレビュー・感想・評価

大綱引の恋(2020年製作の映画)
4.0
地方のお祭りを題材に、その土地の人間関係や主人公の国をまたいだ恋を絡めた人間ドラマ。

題材になるのは鹿児島県の薩摩川内市の「川内大綱引」

地方に古くから伝わる祭にありがちですが、地元の人が青春、いや殆ど人生をかけて大切に守り続ける伝統の行事です。自分はお祭りと言う行事に正直それほど思い入れがなくて、生まれ育った地元の祭りも、楽しみは縁日だけで御神輿や行事自体には殆ど興味を示さない子供でした。なのでこの作品に、特にお気に入りの役者さんが出ているわけでもないのに何故興味を持ったのか?自分でも結構不思議なんですが…思った以上に胸が熱くなりました!

この祭りの花形は「一番太鼓」と呼ばれる、実際に綱を引く人ではなく、一番前で太鼓をたたく役なんですが、ただ単に太鼓を叩くだけかと思いきや、一番太鼓に選ばれた人は、町中の企業をめぐって綱を引く人を集め、大人数を人心的に掌握し、自分のチームを勝利に導く役で、祭り当日だけでなく何日も前からその真価が問われる重要な役目。なるほどこれは選ばれるだけで名誉な役だなと素直に感心。

それに主人公の恋や、家族愛、友情、様々な人たちの想いが盛り込まれて濃厚な人間ドラマに仕上がってます。一歩間違えば安物のヒューマンドラマにも成り下がる内容を見事に感動作に仕上げた監督の熱い思いがスクリーンから伝わって来て、ジーンとさせられました。

監督はこの作品を撮った後に故郷の下関で病気で亡くなったそうで、これが遺作になったとの事。そんな事を知らずに観ましたが、この作品で魂を削ってしまったのかも知れませんね。

主題歌はAIの「Story」。AIはボーカリストとして稀有な存在だと思いはするものの、曲自体はそれほど好きではなかったんですが、この作品に非常にマッチしており、初めてこの曲で素直に感動できた気がします。
たくみ

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