渡邉ホマレ

ミッドナイト・スカイの渡邉ホマレのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・スカイ(2020年製作の映画)
4.0
リリー・ブルックス=ダルトンの『世界の終わりの天文台』を映像化。
映画には原題が付けられているけれど、小説の邦題の方が良かった気がする。

理由は語られないものの、どうやら終末を迎えた世界(理由などはどうでも良いのだ)で、北極の天文台に一人残った男の姿と、地球への帰還中だった木製探査船乗組員の姿が交互に描かれる。

小説の邦題が素晴らしいのは、作品全体が醸し出すイメージを見事に表しているからで、お察しの通り本作は所謂ディストピアハードSFでありながら、落ち着いたトーンで語られる寓話的な内容。だから『インターステラー』や「流転の地球』といった派手な「危機回避SF」を期待するのがそもそもの間違いであり、前述の通り「世界の終わり」の原因は問題ではない。
世界は終わるのであり、残された人間は数少なく、孤独な老人に感情移入することが大切で、「ほぼ一人芝居」のジョージ・クルーニーは適任。頑固そうにも気難しげにも見えるが、どこか優しく思慮深い男の葛藤と奮闘は、演技達者な「顔で語れる役者」であるクルーニーが適任だったと思う。

落ち着いたトーンとは書いたが、映像美は目を見張るものがあり、特に木星探査船のパートは秀逸。外装、内装のデザインも素晴らしい。
クルーニー演じる老科学者と探査船クルーとの連絡が取れなければ、文字通り世界…というか人類は終焉するのであって、その状況が既にスリリングでもある。
彼らのいずれかが一方でも命が終われば、本当の終わりなのだ。

とはいえ本作の本質はそれ以上のもっとコアな、「人間の心」にあり、感じ取ることができたならラストシーンの着地点がより美しいものになるのではないか、たとえ期待していた様なド派手な内容と異なっていたとしても。