よっちゃん

林檎とポラロイドのよっちゃんのレビュー・感想・評価

林檎とポラロイド(2020年製作の映画)
5.0
淡々とした進行の中で、少しずつ明らかになり、際立っていく主人公の哀しさと愛が素直に心に沁みた。生きていると、自分の身体を剥ぎ取りたくなるくらい哀しいことがある。記憶として残っていても持て余すし、薄らいでいくことにも耐えられない。記憶から、毎日、毎時、遠ざかっていくことで常に現在進行形で果てしない喪失が続く。いっそのこといっぺんに全部手放してしまえたらという気持ちはすごくよくわかる。

画的なところで言うと、色彩の構成がとても心地よかった。水色、白、調度品の濃い木目のブラウン。その中で紺や黒などの地味で重い色合いの服装をした主人公と、りんごの赤のコントラストが美しかった。

起承転結が、細やかに主人公のセリフや動作に織り込んであるので、観る側も丁寧な視点でないと楽しめないのかもしれない。シナリオはややコミカルで、主題に対して軽やかな印象。最後まで押し付けがましくなくて、いわゆる「泣かせにくる」映画のいやらしさがなかった。
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