安藤エヌ

あの夏のルカの安藤エヌのレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
4.0
ディズニーピクサーらしい、子どもも楽しめる明快で優しい物語に深いメッセージ性を内包させている映画。シーモンスターは差別意識を、アルベルトやジュリアの家族は家庭それぞれの多様性や子どもが抱える現代的な問題を示していると感じた。偏見をなくし、勇敢さを称える心を持つことの大切さを難解なストーリーではなく、幼い観客にも考えをもたらすように作られており、歴代作品で魅せた手腕が今回も光っている。

ジブリ好きであることを公言している監督というのもあって、随所にジブリへのリスペクトが見られ、ジブリファンとして楽しく観れた。
なかでも主人公ルカとアルベルトの関係性と、ふたりの関係性が行き着くラストには、「千と千尋の神隠し」で千とハクがそれぞれ互いを思い合い、思い合っているからこそ互いの居場所を見つけたときにそっと受け入れ背中を押すラストが見せたような深い余韻を感じることができた。ジブリが描くキャラクターの関係性とその美しさを理解し、リスペクトを込めて描かれたラストシーンだと感じた。
ただキャラクターや作品が好きなだけでは到達できない、"真のファン"としての愛情に満ちたオマージュを見ることができたのはジブリファンとしてとても喜ばしかった。

他にも美しい海、イタリアの街並み、太陽の眩さ、夏の青空など温度や空気の匂いまで感じられそうな描写の数々もすばらしい。心の宝箱にそっとしまい、時々開けて眺めたくなるような作品だった。
安藤エヌ

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