鮭茶漬さん

あの夏のルカの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
5.0
ディズニーが今年2021年に犯した最大のミスは、この映画を劇場公開しなかったことだろう。コロナ禍だから仕方ないにせよ、同時期のマーベル作品が配信と劇場の並列公開を決定していたのだから、選択肢は他にもあったはずだ。是非、劇場公開され多くの人に観てもらいたかった・・・・・・そのくらいに、素晴らしい作品だった。

『ファインディング・ニモ』の海洋世界、親が心配性、子供の自立や、『トイ・ストーリー』の仲間との絆、人間世界との共存など、これまでのピクサー作品でみられたエッセンスが随所に散りばめられており、若干の既視感あれど、それをも良しと消化するに相応しい、青春期の恍惚感とほろ苦さが共存する感動的な物語であった。

シー・モンスターである主人公ルカとアルベルト、彼らはベスパという人間の乗り物に憧れを持ちながら、人間の姿になって小さな村に溶け込む。そこで、意地悪な街の悪大将や、彼に大会で負け続けている気の強い少女と、シー・モンスター狩りの父親などと出会い、時には笑い合い、時には喧嘩しながら、ひと夏を過ごしていく。イタリアの町並みを駆け抜けるルカたちの姿は『ローマの休日』にも重なるし、雨のシーンなんかは『ニュー・シネマ・パラダイス』よろしく往年の名作をオマージュしてて映画好きにはたまらない演出となっていよう。

普遍的なジュブナイルに徹して展開される物語は、例えば『スタンド・バイ・ミー』『君の名前で僕を呼んで』のように、大人の視聴者に対して、あの頃に戻る体験をさせる。いつもは、大人の視点にも合わせてきたピクサーだが、多感期の微妙で繊細な感情の描写が手伝って、本作では子供視点に引き戻させる。大人の夏休みに、冒険心を芽生えさせてくれる、その瑞々しさが実に心地良い。
同時に、人間とシー・モンスター、自分とは異種族との共生も描く。多様性が叫ばれる世の中、マイノリティが声を上げることで改善されることは多いが、映画賞の男優賞や女優賞を同じにする(そもそもMetooは女優の報酬が低いことの是正から始まったわけで性の同一化ではないはず)、日本でもLGBTの配慮でトイレの性別の色分けを行わないなど(性権利の主張だけで弱視の方のことを何も考えていない)など、行き過ぎているものがあるのも事実。しかし、ここで描かれるのは、排他的になっていた、ここ数年の世界を戻す「共存」の思考である。シー・モンスターと共存を成し遂げた世界は平和で明るい。思いのほか、短時間でギュッと要点だけをまとめた気がするので、もっと余韻を持って語られるべきな気もしたが、是非とも、短編(既にアルベルト主演である)や、続編(今度こそ劇場公開で)を願いたいところである。

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