若者の高齢化

COME & GO カム・アンド・ゴーの若者の高齢化のレビュー・感想・評価

5.0
10年に渡り大阪を舞台に映画を撮られてきた、リム・カーワイ監督の大阪三部作の三作目。二作目から間隔があいたこと、今回多数の映画館での上映を実現させたのは、監督の並々ならぬご苦労の結果だったということだ。その集大成に相応しく、より広く深い仕上がりとなったぶん、上映時間は長い。まずそこで好みは分かれそう。

主人公がおらず、登場人物の数だけ物語があり、かつ各々の抱える問題も多岐に渡る。
貧困や差別、孤独死や外国人問題など、意見が割れそうな題材だ。
掘り下げたいテーマや共感するポイントは観る人自身に委ねられている印象。
全体の雰囲気は明るく、これといった価値観を強要されることがないので安心して観ていられる。

この映画のあらすじを語ろうとするとネタバレしてしまう。
随所に仕掛けがしてあり、見落としがちな現実を映画でも見落してしまいそうになるというリアルさがある。
一度では追いきれない。難解な映画だからというわけではないので、敢えて一度だけ観た感想を書いてみたい。更にはネタバレを避けるための苦肉の策として、自分語りをするため、不快な方は飛ばしていただきたい。

舞台はインバウンド全盛の大阪市内。通称キタと呼ばれるエリアだ。インバウンド初期、私は趣味を兼ねて全国を転々としていたが、特に大阪市内は異質だった。街は東京と変わらないくらい綺麗になったのに、どこも外国人観光客だらけだ。寛容だと思っていた大阪の人々が痺れをきらしていたのを思い出す。
まるで中国だ、日本人が買い物することもできない、うるさくてたまらない、そう腹を立てる旧友。天邪鬼な私はこう考えた。おいおいちゃんと確認したのか。中国語を話す来客たちの中に、台湾や香港、中国本土の方々がいるはずだ。日本人として恥ずかしくないのか。そんな独善的な妄想に取り憑かれ、私はますます孤独で不幸な人間になっていった。

台湾からきたシャオカンと北京からきたラオファン。これまでの経緯があり、冒頭から私は二人に夢中になっていた。このおじさんたちはただマイペースに日本を旅しているだけ。インバウンド全盛期に街で偶然見かけたら、仲のいい中国からの観光客だと思い込む人が少なくなかったろう。実際私も見落としていたはずだと思うと、私は二人の物語から目を離せなくなってしまった。結果的に他の登場人物の物語のいくつかを見逃したのだが、都市というのは案外そういうもので、自分の興味のあること以外見なかったことにしてしまうのかもしれない。

私のような、孤独で不幸な奴は絶対見たほうがいい。登場するのは広い都会の中ですれ違いを繰り返す、孤独で不幸な奴らばっかりだ。なのに10年後、20年後にも会いたいと思える、不思議な希望を放つ人が勢揃いだ。誰に共感するかも嫉妬するかも、すべては受け取る側の自由に委ねられている。
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