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私は決して泣かないのeriikoのネタバレレビュー・内容・結末

私は決して泣かない(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

東京国際映画祭初参戦。バイク泥棒を観に行くので、もう一本観たいなぁと思い、予告編を漁っていたらなぜかピーンときた。この作品を選んで大正解。我ながらエクセレントチョイス、傑作だと思いました。

ポーランドで母親と兄と暮らす高校生オラは、運転免許の試験に度々落ちてはイライラし、酒も飲むしタバコも吸って素行は悪い。しかし障害がある兄へ接する優しい姿から元はとても素直な少女であることがよく分かる。

アイルランドに出稼ぎに行ったっきりの父親のことは、何度母に注意されても"Dad"と呼ぶことができない。そんな父が事故死してしまい遺体を一人で引き取りに行く。

父と判別出来ないくらい損傷が激しい遺体を見ても実感がわかないオラ。遺体を輸送するには多額なお金が必要なことを知り途方にくれる。現実的にお金をどう工面しようか悪戦苦闘する中、父の職場を訪ね父がどんな人だったかなんとか手がかりを聞きだそうとする。時に悪さもするが周りの大人も事情が事情なので、簡単に突っぱねないのは安心した。

しかし何よりも彼女がショックだったのは、父が自分たち家族を1番に思ってはいなかったことを知った時だろう。一度は魔が刺してしまうが、この国で移民として生きる大変さを思い、きちんと謝る姿には感動した。それは自分がよく知らなかった父への赦しでもあるのだろう。

遺体を仕方なく火葬し持ち帰り、葬儀の最後で父と最初で最後のドライブをする。そこで初めて流れる涙。とてもとても強くて勇敢なオラだけど、一人で抱えるにはあまりに大きすぎる現実。彼女が泣きたい時にそばにいてくれる人を願うばかり。


追記:私も事情は違えど、大人になるまで父が海外で単身赴任という生活だったため、父なのに父と思えない感覚は少し理解できた気がした。また、遺体を火葬して持ち帰ることは、最後に一目会いたいからではなく宗教的理由のためというのが日本人だとあまり馴染みがないかな。
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