たく

スウィート・シングのたくのレビュー・感想・評価

スウィート・シング(2020年製作の映画)
3.8
親の下でのすさんだ生活から抜け出し、自分たちの世界を見つけようと放浪する姉弟の姿を瑞々しく描いてて、無力な子どもたちが行き場を失う状況がやるせなかった。モノクロ映像の中にときどき差しはさまれるカラー映像が鮮烈で、姉弟が過酷な状況にあっても明るさを失わないところに希望の光が見える。本作で姉弟を演じた二人は監督の実子で、アレクサンダー・ロックウェル監督作品は昔に「フォー・ルームス」を観てた。プロデューサーの名前にサム・ロックウェルがあったけど、監督と血のつながりはないみたい。

廃品を売りながら父親の下で貧しい生活を送るビリーとニコの姉弟が身を寄せ合うように暮らすうち、父親のアル中が手に負えなくなり、自宅を出ざるを得なくなるという過酷な状況がまず描かれる。ビリーの名前は父親が好きなビリー・ホリデイから採られてて、ビリーの妄想の中でビリー・ホリデイらしき人物がたびたび登場する。彼女の初登場シーンで、それまでモノクロだった映像に突然差しはさまれるカラー映像が目に焼き付くような鮮烈さで、ビリーが過酷な状況でも希望を失っていないことの象徴になってた。

ビリーとニコが別の男性と暮らしてる母親の家に居候することになり、ここで変態気質を発揮するボーが最悪の人物。この母親はことごとく男を見る目がないってことで、世間で最近言われてる「親ガチャ」という言葉が浮かんだ。この状況から二人を救い出してくれるのが放浪児のマリクで、父親の住むフロリダを目指すロードムービーとなっていく。ニコが留守の邸宅でピストルを見つけるところが怖くて、世間から打ち捨てられた子どもが怒りの象徴としてのピストルを拾うのは、「天気の子」「ほかげ」など普遍的な演出なんだと改めて思った。悲劇的な展開から、憑き物が落ちたように断酒を達成した父親と、目が覚めた母親のもとに姉弟が帰っていくハッピーエンドが微笑ましい。
たく

たく