Tatsu

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-のTatsuのレビュー・感想・評価

3.5
少なくとも今年ワーストでも、ロン・ハワードワーストとも言わない。原作がそもそも当時のアメリカの白人層にとっては希望的な話だったのだと思う。要は、人は立ち直れるのかの話であり、それは同時に今のアメリカに希望は見出せるのかの話でもある。この20年間でより深刻化した、格差社会、ホワイトトラッシュ、医療保険制度の崩壊。これらは社会から特定の人々を溢れ落とし、隔絶してしまう。その中で、周りの人々に支えられ(ある種反面教師的にも)、救われ、人生に成功する。そんな彼から思い出されるこの物語は、どうしても所詮は「成功した人」の話になってしまう。家族というのは呪いでもあり、同時に救いでもある。ここでこの三世代の対比は活きてくる。一度失敗し、二度と同じ過ちを繰り返さないと決めた人間。失敗してしまった人間。そして、彼女たちの背中を見て成功する人間。彼にこそどん詰まりのアメリカ社会への希望を当時は見出していたのだろう。しかし、トランプ以降、なんなら先日の大統領選以降で劇的に移り変わる現在のアメリカを見ていると、どうしてもこの物語を今映画で見せられることの空虚さに馳せてしまう。勿論、このベストセラーを否定するつもりはないし、今作を作るべきではなかったとは思わないが、本国の批評が悪かったのもあまりのタイミングの悪さにあると思われる。それはそうと、役者は総じて素晴らしい。これがベストとは言わないけど、エイミー・アダムスもグレン・クローズも名演。過去と現在を暖色系と寒色系の撮影で分けてるのは今年だと『ストーリーオブマイライフ』もそうだったが、流石にあちらには劣る。映画の出来自体はそこまで悪いものではないとは思うのだが。どうしてもこれを今見る意味が見当たらないと、やはり多くのコンシャスな観客にとっては結構キツイのではないか。
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