Nana

セブンのNanaのレビュー・感想・評価

セブン(1995年製作の映画)
4.1
救いがないことに救われた.

文学的. 特に主人公二人が対立する会話のシーンは哲学だった.この世を生きるための持論の展開. / 「悪魔」などおらず、普通の人間が悪魔になる.連続殺人鬼たちと私たちは常に隣り合わせで、それは彼らの被害者になるということではなく、いつ私たちが殺人鬼となってもおかしくないということ.人間誰しも、当然自分自身も心の中に悪や罪を抱えている世界で、その事実に絶望しながらいかに生きてゆくか.絶望・諦め・達観・悟り、これらの違いは何だろう? この世界や人間、そして自分に対して絶望を感じながらそれでも前を向いて生きなくてはならない、絶望と戦い続けなくてはいけない.「絶望と戦い続けることを諦めない」

あるレビューで「どうして普通の人間が連続殺人犯になってしまったのか?その背景を描くべき」だという意見を見かけたが、犯人の背景を描いてしまっていたら、本作は上記のような哲学的ともいえるメッセージを残せなかっただろう.例えば、今回登場する連続殺人犯が幼少期に親が理不尽に殺されたとか、障害を抱えていて社会に対して不満を持っていたとか、いわゆる「普通」とは違う背景を持っていたなら、私たちは彼と自分自身の間に線引きをしてしまうだろう.「ああ、なるほど彼は普通の人といえど、悲惨な経験をしていたから悪魔になったのね」と。本作が言いたいのはそんなことじゃなく、彼が真っ当な「普通の人」であることが大切だったと思う.「普通の人間」であるために、ただ生活感のみが必要だったのだろう. 先天的な悪魔でない、さらに悲惨な経験をしたわけでもない、そんな「普通の人間」が「悪魔」になることだって大いにあるのだ.それが、生きる上で目を向けるべき、誰もに共通した絶望である.

絵作りが完璧で美しい.フィンチャーの完璧主義っぷりが伺える.殺人が行われた部屋や殺人犯本人の暮らす部屋のシーンには視覚も精神も蝕まれた.
Nana

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