ブラックユーモアホフマン

ドライブ・マイ・カーのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
今まで観た濱口作品で一番優しかった。

且つ、易しかった。尺が3時間、そしてまた演劇が絡んでくると聞いて、これは、と思ったのだが、観てみると意外に普通の構成の映画だった。3時間が特別長くも感じなかったのはさすがだが、平易な構成なのでこれまでより、長尺であることの意義は感じられず、正直ただ冗長であると感じるシーンも少なくなかった。その気になれば2時間強にまとめられる作品なのでは。そしてその方が、伝わるのでは、とも思わなくない。少なくともこの作品は。

原作から車の色を変えているらしい。そのことについて車好きからすると一言あるらしいが、僕は映画には正解だったと思う。やはり画面にワンポイント赤は欲しい。そうすると映画の中心にある車そのものが赤いことは画面を作る上で大変助かる。

夜の山道を行く車のカットで真理子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』を思い出したが、これはむしろ『寝ても覚めても』以前の濱口作品を多く担当した佐々木靖之さんの仕事で、四宮さんは真理子監督だとむしろその後の『宮本から君へ』を担当していたのだった。

朝焼けを狙ったファーストショットから魅了される。逆光で妻の顔がよく見えないのが心を落ち着かせない。(追記:朝焼けだと思ったが実際の撮影は夕暮れだったらしい)
同じ言葉を別の人物の口から言わせて微妙に意味を滑らせていく。
これと言わずに意味や状況や関係性をそれと悟らせていく台詞と演出。
出がけに姿見の位置をそれとなく示しておく撮影と編集。
そしてやはりいざという時には、カメラが顔の向く真正面に入り込む。その瞬間。
後部座席から助手席に乗り換える瞬間。
吉田大八!?

登場人物の誰もが極めて理知的に、正しく話す。基本的に、相手の言い終わるのを待ってから話し出す。こんな会話が現実にもしたいものだと思う大変綺麗な日本語の会話。だが、演出家や俳優など表現を生業とする者達が、まるで小説の「 」の中身を暗唱するように話すのはまだ理解できるとして、ドライバーである彼女までもがそのように話せるというのが些か、いや職業や性別で差別する意図は無いのだが、実在感に欠けると思わなくない。しかし待ってる間、本を読んでる人だったしな。偏見はよくない。つまりあまりに皆、同じように話すのが。整頓されすぎていて違和感ないか?ということ。

原作を読んだり、二度目を観たりすると、また新たな発見がありそうな映画だった。濱口監督最高傑作と言う声も聞いたが、僕は今のところそうは思えない。まあ、もっと歪な作品が好みなので。

濱口監督の映画は、波のない静かな水面のようで、よーく見ている内にそこに映った自分自身の顔とにらめっこするようになっていき、更にその奥深くの暗い水の底に何が沈んでいるかまで想像させられるに至る。

【一番好きなシーン】
・着替えるから、と高槻を出させた家福が投げた衣装が椅子に乗るカット。
・ゴミ処理場。
・高槻が先にバーを出て、、、見せずに不穏さを残すワンカット。見事。