"邦画らしさ"の臨界点をひとつ超えた良作
ここでいう邦画の臨界点とは4.3
近年、「宮本から君へ」や「湯を沸かすほどの熱い愛」のような良作が続く中で
ひとつ、頭抜けた作品ではないだろうか
また本作は「ジョゼと虎と魚たち」や「街の上で」のようなあくまで散文的な日常の切り取り方をした作品でありながらも
・映像の構図、光の入り方が常に意識されていること(日本映画は俳優の顔ばかり写そうとして照明がゴミ。映像としての美しさがない)、またそれが三時間近くにわたって保ち続けられること
・村上春樹原作の脚本としての素晴らしさ
・ロケーション、衣装、PRスタッフの功労
・韓国チームのキャスティングの成功
などの様々な要因によって、邦画において「怒り」や「新聞記者」のようなテーマに重さを持った映画にしか超えられなかった"壁"を超える作品になっている
"壁"とは、テーマを強くすればするほど邦画らしさからは離れ、弱いテーマ(散文的な作品)では映画としての力が弱まってしまう、というジレンマである。
言ってみれば本作は"邦画らしさ"を克服し
また真に"邦画らしさ"を達成した作品だ
また、この散文的な作品である
というのは非常に有意義な達成だ
個人的に、映画は散文が好きである
A24によって生み出される「mid90s」や「レディーバード」といった作品のように
散文的、あるいは抽象的な作品でこそ映画の土壌が試されるというものだろう
すっかり文化後進国になってしまった日本ではあるが、こうした現状を憂う、優れた才能を持つ人間は多いはずだ。
映画業界全体、また社会全体がこうした日本映画界の現状を問題視し、本作のような優れた作品を声高に評価することで
良文化が培われる土壌が形成し直されることを祈るばかりである