Ayako

ドライブ・マイ・カーのAyakoのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.5
映画館で見そびれてしまい、レンタル解禁と同時に鑑賞。

3時間と割と長丁場な作品ではありましたが、作り手のこだわりが隅々まで感じられ、見終わった後に心地よい余韻が感じられる作品でした。是非オスカー取ってほしいですね。

印象に残ったポイントは数え切れないけれど、いくつか特に記憶に残ったものを。

全編を通じて、行間をうまく使いながら、原作の世界を過不足なく表現し尽くしている点は今まで見てきた小説の映画化作品の中でも突出しているなと個人的には感じました。例えば、主人公の家福と音の関係性について、丁寧に描いている冒頭のシーン。物語の出発地点の「妻の死」という出来事に潜むコンテクストは何かというのをきちんと描いていて、それが、本編というかその後の物語の本筋で展開するストーリーに深みを与えてくれていると思います。愛情はあるものの、どこか建前ありきで進行する夫婦のあり方だったり、他の男とも関係を持ち続ける妻に対する本音と建前的な気持ちに葛藤する家福の心の蠢きみたいな部分。家福の場合、「妻の死」が、愛する人を失ったというだけでなく妻ときちんと向き合う機会を失ったがゆえの苦悩を抱えてしまっている。その点を、台詞そのものだけでなく、仕草や、劇中で登場する戯曲の台詞にクロスさせるといった様々な角度で表現されていていました。

またキャストも素晴らしく、主役の家福を演じた西島秀俊(憂う男を演じさせたら日本でこの人の右に出る人はいないのではないでしょうか)の仕草や視線で見せる演技はもちろん、ドライバーのみさき役の三浦透子の台詞は少ないものの、早く大人にならざるを得なかったゆえに醸し出されるマチュアな空気感、妻の音を演じた霧島れいかのどことなくピュアで天真爛漫さと脆さを感じる演技も印象的でした。また、妻の愛人だった高槻役の岡田将生の成熟しきっていないがゆえに時折みせる危うさが、全体として淡々と展開していく物語の中で良いアクセントになっていたと思います。

見る方によって、感じ方や解釈の仕方が細かく違ってくる作品なので、レビューを見るのも楽しく、また時間を変えて再度鑑賞したいなと思いました。
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