若色

ドライブ・マイ・カーの若色のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0
3時間を超える大作を自宅・1人・PCで見切れる集中力を自身に期待できなくて、劇場で鑑賞。
結果→観てよかった。

愛車を愛する主人公(西島秀俊)にとってドライバーの渡利みさき(三浦透子)は、愛車を擬人化したような存在だったと思う。彼女は、無駄なことは言わず、癖もうまく扱い、重力をも感じさせない空間そのものであった。

叫ぶ気持ちを抑えた時も、泣き出す気持ちを溜飲した時も、片時にあったのは赤いマイカーであり、自身の気持ちを吐露した時も擬人化した存在を抱きしめていた。

淡々とした毎日にも、否応無しな変化は起きてきて、変化に敏感で機敏な若い役者高畑(岡田将生)は、感情のままに行動する、ある意味主人公からは羨ましくも思える行為に出る。
何が許せないなんて、他人には推量れないからな。

マイカーの赤い車はどこまでも無機質で優しい。
変化のない、無機質さが主人公にとって愛おしいのかもしれない。

バックハグからの手話で、主人公は、音以上の言葉以上の意味を知る。

生きていかなければならないの。
死んでから辛かったって神様に言おう。
神様はきっと憐れんでくれる。

文字面だけの「言葉」だけでなく、言葉の持つ可能性を探った主人公の独特な演出方法は、彼自身を癒すためのこの時のためのものだったのかしら。
この瞬間は、舞台をやる者なら誰もが望む、舞台上での奇跡が観客にも伝わった、なんならスクリーンを通した私たちにも伝わった瞬間であった。
少なくともわたしはその瞬間を感じた。

ラスト、異国で過ごす彼女のわずかな笑顔は、何かが晴れた、観客を少しの間重力から解き放つような力があった。
若色

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