靜

ドライブ・マイ・カーの靜のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
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繰り返される台詞が体に馴染み自在に取り出せるようになった頃、言葉はさらに奥深くの精神にまで浸透し始める。肉薄するほどに痛みを覚えながら、琴線に触れた瞬間に沸き起こる奇跡のような瞬間。“演じる”ことでしか到達することの出来ない奇跡のような映画的祝福の瞬間。言葉が受肉した瞬間の研ぎ澄まされた演者の様子に「今、ここで何かが起きていることだけが分かる」と息を呑む幸福。特別で個人的な瞬間を目撃することを許された鑑賞者である幸福。
“演じる”ことを糸口に浮き彫りになる喪失感と、流血した心を重ね合わせる相手との邂逅、本当のことを口に出せる(=受容)までの時間を、車窓から外の景色を眺める合間の白昼夢のような気分で見つめた。滑らかで乗り心地の良い運転で。

まったく言語化が出来ていなくて抽象的ですね。
この先何十年も、ふとした時に取り出しては何度でも眺め回す物語になると思った。とても映画らしい映画だった。

岡田将生という俳優を初めてちゃんと観た。それまで何度もいくらでも観たことのある俳優だけど、彼の長回しのシーンで初めて出会ったような不思議な気分でまじまじと眺めてしまった。
三浦透子の素晴らしさ。自身に頓着がない服装。(大変好みで胸が高鳴りっぱなしだった)愛想のない受け答えをするけど、本当に愛想がないだけで返答は裏表なく真摯で好ましい。もう本当にいつまでも見ていたかったし、声を聞いていたかった。彼女に限らず、どの人に対しても台詞をもっと聞きたい気持ちにさせられた。
台詞に耳を傾けることが心地良いって感覚、とっても好きだなあ。
靜