R

エスター ファースト・キルのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

※前作のネタバレをあらすじから触れてます。

自宅で。

2023年のアメリカの作品。

監督は「ザ ・ボーイ 人形少年の館」のウィリアム・ブレント・ベル。

あらすじ

エストニアにある精神病院から脱走した女性たちリーナ(イザベル・ファーマン「エスケープ・ルーム2 決勝戦」)。彼女の容姿はホルモン異常の病気により少女のままだった。そんな彼女は次の住処として、自らの容姿によく似た少女エスターになりすまし、とある計画を企てるのだが…。

前作「エスター」はやっぱ面白かったですねー。スリラーとしても面白いし、やはりなんと言ってもエスターの正体…マジで今観ても衝撃的だし、これ観る前に前作も鑑賞したんですが、あのシーンのスピーディーな語り口、そしてそれに驚くベラ・ファーミガ…絶品です。

そして、そんな前作から、まさか、まさかの14年ぶりとなる続編、しかもエスターその人の前日譚という…。

誰が観たいん?というような内容で、俺自身も今作の存在を知った時には半笑いしつつ、まぁ興味はめちゃくちゃあったのでw、動向だけはチェックしていたんだけど、公開時はめちゃくちゃスコアが高い!というわけではなかったんだけど、宇多丸さんも「アトロク」で褒めていたり、YouTubeチャンネル「シネマンション」でも取り上げられていたりと映画好きからの評価もかなり高くて、それならば前作とは異なるらしい「衝撃的展開」を体感したいと思い、友だちと早速配信されたアマプラにて鑑賞しました。

結論としては、なるほど!かなり面白かったです。

お話はあらすじの通り、まさに前日譚という感じで、前作の鑑賞は必須。ただ仮にも見ていなくても、冒頭の精神病院のシーンで医者が全て説明してくれるので、まぁわかる作りではある(ただ、それはそれでかなり勿体無いのでまだ観てない人は観た方が絶対良い)。

冒頭のシーンでもいたいけな少女のフリして、新人のケースワーカー?に近付いたり、同じ病院の凶暴な患者を飼い慣らして、警備員を殴り殺させたり、挙句の果てにはその混乱に乗じて最も簡単に病院を脱走したと思ったら、そのケースワーカーを自ら殴り殺したりと、前作以上にかなり狡猾で凶暴なエスターが恐ろしい。

ただ、エスターを演じているイザベル・ファーマン自体、前作から10年以上年月が経過していることもあり、もちろん現在はあの頃の子役の面影を出すには少々辛いルックではある。

メイクで誤魔化してはいるものの、やはり顎は出てきちゃってあの頃のダークな可愛げはあんまり出てないし、どうやら周りの登場人物にシークレットブーツみたいなものを履かせてCGではなく古典的な技法により、身長の高低差を出して「子ども感」を出してるみたいだけど、なんかそれも違和感は感じてしまうというか、なんかシュールでもある笑。

ただ、ここらへんは宇多丸さんが映画時評でも述べていた通り、前作がエスターが「大人」を演じていたのに対して、今作では成長した「大人」のイザベルが「子ども」を演じているという風に捉えると、確かに「擬態」がまだ甘いというように見えて、なるほど上手い作りというか、なるほど今のイザベルが演じるからこそできる「エスター」にしかできない続編だわ。

まぁ、何よりイザベル・ファーマンが良いってのが大前提であるんだけど。

で、そんな病院を脱走したリーナもといエスターが次に目をつけたのがアメリカ、コネチカット州にあるオルブライト家。

前作の家も割と裕福だったけど、このオルブライト一家がそれに輪をかけて金持ちで、お父さんのアレン(ロッシフ・サザーランド「リベンジャーズ -命の奪還-」)は芸術家だし、お母さんのトリシア(ジュリア・スタイルズ「ハスラーズ」)はチャリティーパーティー開いちゃうし、兄貴のガナー(マシュー・アーロン・フィンラン「傲慢な花」)はイケメンで尚且つフェンシングの使い手という華麗なる一族っぷり。

前作だと父親が浮気した過去があったり、お母さんが元アル中だったり、妹が聴覚障害を持っていたりと付け入る「弱み」があったのに対して、この時点で、今回の家族はあのエスターとの食い合わせの悪さがあるように感じて、実はそれも後々の伏線だったのかな。

で、今回も懲りずにエスターはこの家のお父さんに横恋慕しちゃったり、裏で何やら画策したりするんだけど、お母さんは父親といい感じになってるのに見て見ぬフリだし、兄貴は前作のお兄ちゃん以上にエスターに対して冷酷極まりない感じで、なんか前作の家族との違いに違和感を感じていると…。

家族以上に、一番エスターの存在を怪しんでいた、ドナン刑事(ヒロ・カナガワ「君は僕のもの」)がエスターの指紋を秘密裏に採取したことを知ったエスターが例の如く刑事に重傷を負わせると、なんとその刑事にトドメを刺したのはお母さんトリシア!!

実は、元々のエスターは既に殺されており、殺害したのは兄貴のガナー。そして、エスターが殺されてしまったことを知ったトリシアはその事実を隠すために代わりとなる子どもを探している(フリ)をしていたと。

つまり、父親のアレン以外はエスターが偽物であることを当に知っていたという衝撃の展開。

じゃあ、偽者だとわかったエスターを追い出すかと言えば、そうではなく、エスターが戻ってきたことで、落ち込んでいたアレンが心身共に元気になって「家族」が元通りになったから良いんじゃね?ってことになるんだけど良いの??めちゃくちゃ人殺してますよ!この人。

で、そっからは父親以外は全員サイコパスの奇妙な同居生活が始まるんだけど、これがまたシュールで面白い。アレンに恋愛感情を抱いているエスターに対してトリシアが「あなたが戻ってきたことで(あっちの方も)元気を取り戻したのよ、オホホホホ〜!」とこれ見よがしに自慢したかと思ったら、エスターもエスターで「お母さんにジュースを作ったの!」と出したスムージーの中にネズミの死体が入っていたりと「家族」という皮を被った肉食獣同士の壮絶な縄張り争いみたいでめちゃくちゃ笑った。

で、そうなってくると面白いもので段々とエスターを応援したくなる不思議。

ただ、そんな生活も長くは続かない。エスターのヤバさに気付いて、こいつも殺しちゃおうってなってアレンの留守を良いことにトリシア&ガナーvsエスターの戦いの火蓋が切って落とされるわけなんだけど、ここまではめちゃくちゃ面白かったんだけど、これ以降が少し残念だったかなぁ。

兄貴のガナーも呆気なくボウガンでやられちゃって、エスター相手にするんなら中ボスにしてももうちょい頑張って欲しかった。

ただ、「ラスボス」トリシアとの決着はすごく良い。燃え盛る屋敷の屋根の上で異変を察知し、戻ってきたアレンの前にその前にもみくちゃになって今にも屋根から落ちそうなエスターとトリシア、「奥さん」と「娘」さぁどちらを選ぶ?という残酷な二つの選択肢を前にエスターを選んでしまった後のトリシアの絶望的な顔。

ようやく邪魔者がいなくなって、遂にエスターの元にも幸せが…と思いきや、明らかに娘じゃないエスターの様子と入れ歯が抜き落ち醜い歯が露わになってしまったトラブルでアレンは気づく。

「お前は誰だ」と。

その後は恐れ慄き自ら屋根から落ちてしまったアレンはトリシアと重なるように落下死、それを見下ろすエスターの顔は無表情で、彼女はその瞬間何を思っていたんだろうか…と思うと少し切ない。

そして、ラスト、本当の意味で1人となったエスターは完全なる「修羅」となり「少女」の皮を被った後、多分前作の孤児院に引き取られることになるんだけど、先生の前で「フリ」をしていたほんの矢先に、完全なる「無」の表情でこちらを見つめてくるんだけど、怖いよ!!

そしてタイトル「エスター ファースト・キル」と!!いやぁシビレましたね。

というわけでなんで前日譚?と不安を感じつつ観たわけなんだけど、前作とはまた異なる展開で工夫も凝らされていてかなり面白かった。前作ラストだと完全に死んだ感じではあるけど、ワンチャン実は生きていた!という形で後日談もイケるか?
R

R