このレビューはネタバレを含みます
「現実を越えようとするのは、人間の基本的欲望であり、創造的欲求のひとつである」
クローネンバーグのこの言葉が本作を端的に表していると思った。
本作で言う「欲求」はセクシュアルな意味合いが大きいように思えるが、それは主にジェームズとキャサリンの場合であり、彼らに新しい知見を与えるヴォーンの欲求はジェームズ・ディーンの自動車事故死をパフォーマンスという形で再現していたように、クローネンバーグの言う創造的欲求をよりわかりやすく成していたと思う。
だがヴォーンはスタントマンのパートナーを失ったことで新しい欲求を探し、パフォーマンスでは無い過激な事故=プレイをジェームズと求めていく。
そしてその道中でヴォーンも喪失し、残されたジェームズとキャサリンはヴォーンの二の舞になっていくように見えるラストへと繋がっている。
「次はきっとうまくいく」。
冒頭とラストで重なるこのセリフから、2人の欲求は果たして満たされる時が来るのかという疑問が湧く。
だが欲求を追う2人は満たされない現実と向き合っているのであり、その自由さと逞しさが羨ましくも思えた。