とも

ボクたちはみんな大人になれなかったのとものレビュー・感想・評価

5.0
今年94歳になる祖父がいる。
自分とは干支を五周している元大工の祖父。

周りに何もないくせに、
徒歩10秒にスロット専門店があるような
家のトイレには、カレンダーがあり
早朝につけたであろうボールペンの斜線が引いてある。
それが何の意味なのかは知らない。

「今日も1日犯罪を犯さなかった」
主人公の語る言葉で、絶対に違うのに
前述のことを思い出し、
今自分が見倣って付けている手帳の斜線は、
彼と同じ意味でつけてるんだなと思った。

動物というのは酷く正直で、
内容の正否より、その人などにどんな気持ちを抱いているかで、受け取り方が変わる。

「どこに行くかじゃなく、誰と行くかなんだよ」
「キミは大丈夫だよ、面白いもん」

寂しさ由来の行動は必ずボロが出る。
初恋のあの子の言葉以上に、冗談以上に。
涙以上に、心が動くことなどなかった。
色んな言葉で誤魔化しても、バレて沢山の人に呆れられた。

その子の顔をハッキリ覚えていない。
真っ直ぐ視ることができなくて。
その子との会話を殆ど思い出せない。
喋ることに必死だったから。
それでも尚、忘れていない事実は
引き摺っている以外に何があるだろう。

自分は幸運なことにその子のSNSを知らない。
だから今何をしているかは知らない。
LINEは連絡先共有みたいなもので勝手に入っていた。
酔ってメッセージをして、色々聞く中で
アイコンが子どもの絵だと教えてくれた。

毎日を何となく生きて、感傷的な言葉に変え、
たまに抑えきれない欲をお金で粗雑に解決して、インプレッション稼ぎの暴論や、東京の明かりに辟易して。

そんな日々を今も否定して欲しい。
誰かに認められるより、
あの子に貶されたいと思う自分が、
この作品に何も感じない訳がない。

後に、祖父が日々つける斜線の横には
定規を用いて書いたような文字があり、
その日の天気と、親族たちの誕生日やお祝い事について書かれていることに気付いた。

「今度、CD持ってくるね」
物語は続くみたいに終わる。
「ふたりで海に行きたいね」
口約束をいつまでも忘れられない。

ボクたちはみんな大人になれなかった。
改めて思う。
ボクはあなたと大人に。
誰かの未来になりたかった。
とも

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