ギャス

マ・レイニーのブラックボトムのギャスのレビュー・感想・評価

3.2
やり切れなさがつのる。

朗らかでテンポの良い会話が交わされる中、ゾッとするようなエピソードが語られる。それは紛れもなくその時代の彼らのリアル。(しかし今と何が違っているのか)
白人のマネージャーにわがままとも取れる態度で接するマレイニーの振る舞いも、彼女が一黒人女性としてここまでくるまでにどれだけの扱いを受けてきたの裏返しであろうと思わされる。
それは、車の後部座席で遠い目で達観したような彼女の表情にも現れていた気がした。

「ブルースはゆっくりとした音楽なのだ」
その意味が語られるシーンも深かった。


ネタバレ
とっておきの靴を踏まれたと繰り返し、最後に取り返しのつかないことをしてしまうレヴィーの気持ちの経緯を感じてやりきれなかった。
虐げられてきた過去、明るい未来を思い描くも何もうまくいかない彼の気持ちの爆発がなぜ老ピアノマンへ行き着いてしまわなければならなかったのか。
そっちじゃないだろう、と。
ほんとうの復讐は誰にどう向かうべきだったのか。
そして、白人たちにウケる(彼らから金を搾り取ってやるのだ)からとテンポアップされた彼の作った曲は、そのとおり白人ウケが良く、そして得意げにキメたつもりの白人たちによって歌われ演奏された(安く買い叩かれ奪われてしまった)。
繰り返される歴史が象徴的に表わされている。

今やっとこのような差別と搾取の歴史にスポットライトが当てられ、映画が次々に作られている。
チャドウィック・ボーズマンの渾身の遺作となったが、溌剌とした頃のプラックパンサー等と共に忘れられない忘れてはならない映画となった。
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