shiron

ライフ・ウィズ・ミュージックのshironのレビュー・感想・評価

5.0
喜びや悲しみ出会いと別れ…その一つ一つが色褪せないMVとして、心のプレイリストに増えていく。
大切な瞬間はいつでも再生できる。
珠玉のMVたちが私の心のプレイリストにも追加されました。

ズーの妹のミュージックは、研ぎ澄まされた感覚の中で生きている。
遠くの音まで聴こえてしまう聴覚と、見たものを一瞬で記憶してしまう視覚。
彼女は、鳥たちが一斉に飛び立つ瞬間の、その一瞬の心の高揚を永遠に保存することが出来る。
そして、それらの記憶は、あたかも目の前で今起きている事のように、ふいに生々しく甦る。(良くも悪くも)

残念ながら私は、忘れたくない人や、忘れたくない気持ちを留めておくことが出来ない。思い出す為に写真や記念品を眺めるけれど、徐々に色褪せていく記憶には抗えない。

でも、ふと昔の流行歌を聞いて、当時の記憶が蘇ってくることがある。
部室で仲間と口ずさんだ歌や、バイト先でよく流れていた曲。一人暮らしの部屋で繰り返し聞いた曲に、片方ずつのイヤホンで聞いた曲。
歌が忘れていた記憶や感覚を呼び起こすきっかけになることがある。

良い記憶も悪い記憶も、歌とダンスに結びつけて心に保存しておけたら、どんなにか素敵だろう。
その時の感覚に色と形が与えられ、音楽とダンスと一緒に、いつでも好きな時に再生できる。
良い記憶は楽しい歌と、悪い記憶は慰めの歌と一緒に。
ミュージックとの暮らしのなかで、ズーもエボも少しずつ心の整理をしていけるようになったのだと感じました。

予告編やポスターの印象より、ずっとヘビーな物語です。
思わず『ダンサー・イン・ザ・ダーク』がよぎる程;
でも、それより近いのは『わたしは、ダニエル・ブレイク』かも。
本当は自分自身も助けを必要としているから、人の痛みにも敏感なのでしょう。
差し伸べる手には、決して「優しさ」だけではない…意地でも運命に屈しないプライドと、
辛い現実を懸命に生きる同志へのリスペクトを感じました。

そして、人との出会いがもたらす変化を描く映画であると同時に、
人との別れをも優しく包み込む映画でした。
ミュージックにとっては、大切な人はカーテンの向こう側にいつでもいてくれる。
カーテンが開けばいつでも会える。
美しくて優しいダンスに涙が止まりませんでした。

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@lifewithmusicjp
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