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竜とそばかすの姫のMSTshoziのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.5
まず、この作品の根幹となるネットワークサービス「U」これが一体この作品世界においてどういうものなのかがわからない。
サマーウォーズではそれが個人と結びつき、生活インフラとなっているもの、僕らのウォーゲームでは最新鋭の未知なる世界だが、自分達の生活に密接に関わりつつあるものだったわけであるが、今作ではいわゆる「MMORPGVRゲーム」のようなモノとしての描写しかなかったように思われる。
何十億もの人が登録しているというが、この中で人々が何をしているのか、が全くわからない。したがって、ここにおける匿名性を失うことがある種死を意味するが如く扱われているが、そのテンションに全くついていけない。
この設定が最後主人公が踏み出す一歩の「大きさ」がどれほどのものなのかを示す事になるので非常に勿体無い。
何が勿体無いかというと、そのシーンが、演出曲共に非常に良かったからで、それだけである種の感動ができてしまうレベルだった。なのでここで主人公がこうする事の重大さが、その世界設定、位置付けからも
伝わるものだったら…と悔しさすら感じる。

また、匿名性のネットワークサービスが一体どこまで市民権を得るかということで、現代それは個人との結びつきがより強くなってきているように思える。本作でも現代的なネットワーク上での情報拡散、個人特定、誹謗中傷、などは他のツールで行われている。つまり、この世界はあくまで、ストーリー、演出のための装置でしかない。この点で、彼の過去の作品の良さを一つ損なっているとすら思える。

この世界で行われる最も重要なシークエンスとしてあるのが、主人公ベルと竜、の出会い、交流なのだがこれがとにかく描写不足。無駄な回想や、ギャグシーンを挟む余裕があればここを丁寧にやってほしい。
お互いがお互いに興味を持つ瞬間が皆無に思えた。なので交流を深める様も唐突、というか、美女と野獣からお互いがお互いを理解していく様をそのまま引いたような何かだった。
「パクリ過ぎなので決してパクリではないが、パクリ過ぎなのでオマージュなのかもよくわからない美女と野獣演出」でそれは補えるかと言われれば、全くそんなことはない。(※城、竜のデザイン、ちびっこ家来たち、「でてけ!」、そしてあのカメラワーク!、火事!、転げ落ちる!などなどメガ盛り)

さて、ここまで語ったネットワーク世界パート以上に尺が割かれているのが現実パートなのだが。これについては、ラストのその場にいる皆が個性を持ち寄って解決に導いていく劇的パズル的解決的快感シーンのためだけに用意されたキャラクタに出番をくっつけたくらいな気がしてしまった。
ただこの辺のギャグとかキャラクタのやり取りが監督の得意なところでもあるのでシーンもキャラも多いのだが、大筋で見ると不要に思えてしまう。父親とかパーカーバスケとかもっとなんとかならんかったのか…もう収まり切ってない。


要は色々とっ散らかっているという事に尽きる。

この作りを見るに、1クールのアニメシリーズとか、5本の1時間アニメとかのが良い気すらしてくる。

もう、共同脚本とか付けたら良いのに。

とはいえベルの歌唱シーン、ラストの歌唱シーンはそれだけで見応えがあり(故に勿体無い)、踏み出す一歩が母のそれに繋がるシーンは見事(故に勿体無い)。
ここまでの映像美をストーリーや展開で飲み込みづらく感じてしまったのが口惜しくてならない。

とにかく、半袖(腕まくりか?)高級時計があまりに石黒賢だったのが一番面白かったです。
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