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竜とそばかすの姫のをちゃのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.0
(細田守監督好きの考察。観る前に予備知識入れない派なので無知識での感想です。以下ネタバレ含みます。)




☆ありそうで、なさそうな。でもいずれ現実になりそうな、そんな世界、U。
最初は、サマーウォーズの導入部分?と思った。ただ、サマーウォーズの仮想世界とは少し違った、なんとなくサマーウォーズの延長線上の世界なのかな?なんて思わせる世界観。
サマーウォーズはあくまでネット上の仮想世界であって、今の世界にあるようなSNSに近いもの。あくまでも画面の前。Uは、それを経てさらに進化したような仮想世界で、実際に自分の精神、身体とリンクして、実際に仮想世界を自由に動き回れる、言ってしまえば、まるでそちらの世界に本当に生きているかのように生きることができるよう。


とにかくベルの歌が素晴らしい。ベルが歌うたびにビリビリと震える感覚。こんな歌声をもつ人に生まれたかった……。羨ましい、ほんと素晴らしい………。

ベルという名前は、美女と野獣と関係があるのかな?竜/と/そばかすの姫っていうのも、美女/と/野獣と同じ名前のタイトルだし、竜のえがき方や、ベルとの関係なんかもすごく既視感を感じた。竜の城や、入った後での「でていけーーー!!!」とか、ベルが逃げ出して、襲われて、助ける、とか、、色々パクリ、、?と思ったけど、ダンスしたり、薔薇に何か意味があったり、城に正義ヅラしたヴィランが突撃してきたりと、その後も似すぎていて、むしろわざと似せてるのかな〜と思ってきた。それも何か意味があるのかも、と。

美女と野獣は、「見えるものが真実ではない」というのがテーマだと私は思う。おばあさんの姿をした魔女だったり、正義に見せかけた悪だったり、悪人のようで善人だったり、時計や燭台のおばけのようで人間だったり、、、と。
この竜とそばかすの姫という物語も、同じテーマのように思う。誰もが羨む美しい歌姫が田舎町に住む素朴な女子高生だったり、Uの世界一のヴィランが理不尽な人生に1人立ち向かう心優しい少年だったり、学校一の美少女がごく普通の恋する少女だったり、、、、。
目に見えているものだけが真実なのではなく、その人を知り、関わり、心が繋がって初めて本当の姿を理解することができる。だから私たちも、表面だけの情報を信じるのではなく、たくさんの人と繋がって、お互いを理解していこう。共に助け合って、誰かからもらった優しさを誰かにあげれるように。そんなテーマがこの物語にはあるんじゃないかなぁと思う。

作中に出てきた、竜の少年の弟。物語の中では直接的に「目が見えない」と言われていないけれど、目の動きや行動からしておそらく盲目、弱視であると思われる。
彼は「天使」としてベルと序盤から関わっていたが、彼の口から出る言葉はどれも真っ直ぐで、優しくて、温かく、素敵な言葉ばかりだった。それは彼が「目に見えるもの」に頼らず、「心」を見ているからじゃないかなと思う。見えないからこそ、見えるものがある。
ベル/少女に初めて会った時に言う言葉。「君はかわいい。綺麗だよ。」と。なんて素敵な少年なんだろう。なんて綺麗な目を持った子なんだろうと。
そして同様に、少女に対して「大好きだよ」とストレートに愛を伝えられる竜の少年。
こんな澄んだ目を持った未来のある子たちを救ってくれた少女に、心からの感謝しかない。ありがとう。本当に。




☆主人公は、小さい頃に不慮の事故で母を亡くし、精神面に大きなダメージを抱えたままの少女。なぜ私を置いていってしまったの?母の答えがわからないまま、何事にも正面から受け止められずにいる。どんな理由かは人によって違うが、同じように悩み、苦しみ、真っ直ぐに生きられず、けどそんな自分がいやで嫌いで醜くて情けなくてどうしようもない。きっとそれは誰もが同じだと思う。彼女と同じ部分を誰しもが持っているはず。

そんな彼女がUと出会い、歌によって瞬く間に人気者に。殻に籠もりっぱなしだった少女が、ネットによって喜びも楽しさも、そして怒りも悲しみも覚え、自分で、そして仲間と考えて、行動して、成長する。
もしもUがなかったら。少女は他人と関わることも、傷つくことも悩むこともなかった。けれどUと出会ったから、歌という自分の可能性を見つけられ、自信と勇気を知り、護りたいという母の気持ちを知れて、また自分もいかに護られていたこと、たくさんの愛があったことを知ることができた。
もしもこの映画で「護る」という意味が「自分のエゴを押し付ける」大人たちであった場合、「ネットばかり見ていないで現実を見なさい」とネットを取り上げ、自分で選ばせた道ではなく自分が進んで欲しい道を押し付け、何の解決もなく進んだ少女は愛も何も知ることなく、このまま生きていただろう。
しかしこの映画の大人たちはみんな、「見守るべき時は優しく見守り、助けが必要な時は手を差し伸べる」という「護り」。映画の中でわずかしか出てこなかった少女の父は、一見少女との関わり方がわからず、殻に籠る少女に対してどう接していいかわからない父親のように思えた。しかし終盤、「君はお母さんに育てられ、お母さんの優しさをしっかりと教わり、優しい子に育ってくれた」という言葉により、少女が抱えていた全てのものが降りたように感じた。(終盤で合唱団の奥様方から即座に連絡をもらっているあたり、もしかしたら普段から密に関わりを持っていて、みんなで一緒に見守ってきたのかもしれない。)
誰かからもらった大きな優しさを、誰かのために使う。綺麗事の映画って思うかもしれないけど、自分自身もらうばかりで、少女のように使えたことがない。私はこの映画を見て、そんな大きな優しさを誰かに与えられる人間になりたいと思った。
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